2-2


 その日の休み時間、尾西をボコったことへの報復しに、他クラスからその不良仲間が教室に乗り込み、俺を囲った。


 「おい、何よーすけ(=尾西)を泣かしてくれとんじゃ、ゴミ陰キャ」

 「は?別に泣かすまでのことはしてへんわ。ビビり散らしてはいたけどな。で、何の用やねん、ヤニゴミカス大村」

 「何やねん松山、お前急に調子乗るようなったな?足速いだけのお前が、俺らに喧嘩売って平気で済むと思ってんの?」

 「確かに走ることだけが取り柄の俺やけど、陸上から逃げたお前にあれこれ言われたくはないわ、横原」


 わざと怒らせようと挑発してやったら、案の定短気を起こした大村が先に手を出してきた。ここも1回目と同じなら、俺はこの後こいつとの喧嘩に負けて、負け組中学生活を送る羽目に遭うわけで…。

 はぁ~~~あ、またこの負けイベントを体験しないといけないのか……。惨めな負け犬生活をまた繰り返すくらいなら、後日凶器を持ち込んでこいつらガチで殺しちゃおうかな。


 そんな危ない思いつきをしつつ、やけっぱちで拳と蹴りを繰り出してたら、なんか大村が床に倒れて、うめいていた。


 「………あれ?」

 

 思わず間が抜けた声を漏らす。大村を見ると鼻から血を流し、唇を切らし、前歯が一本欠けていた。え?これ全部、俺がやったの?

 見回すと横原と尾西が唖然とした顔をこっちに向けている。どうやら本当に俺がやったらしい。


 「ちょ……おま、何やねん…!?」

 「いや、何やねんって言われても……」


 横原は俺に喧嘩ふっかけることはせず、床でのびてる大村を担いで、俺に戸惑いと気味悪がる目を何度か向けながら、退散していった。ついでに尾西も俺から逃げて行った。


 この前の練習といい今の喧嘩といい、今回のやり直しは何かが違う。前の時とは色々変わってるところがあり過ぎる。


 陸上…足が速くなった?動きが丁寧できれいになった?

 学校…不良との喧嘩に勝った?その要因として、力が強くなってる?

 自分の腕や脚に目を落とす。パッと見た感じ、肉付きは当時と同じに見える。筋肉量は変わってない。であれば中身が変わったのか?でも自我や記憶、知識は変わってない感じのはず……。


 俺の身にいったい何が起こってるのか。前との変化の正体とは?まったく分からないまま過ごしていると、またも喧嘩イベントが発生する。それも、前のやり直し時には無かったタイミングでだ。


 事の発端はこの時期に行われる体力テストの結果。俺自身も驚くことに、ほぼ全種目を俺が首位独占するという事態が起こった。50m走も立ち幅跳びも、ハンドボール投げも上体起こしも、20mシャトルランも。少なくともこれら全種目は俺が学年トップ記録を出した。

 50mと立幅はまだしも、まさかボール投げとシャトランまで一番をとるとは……。本人ですらあまり納得いってないんだ、当然この結果に異を唱える奴らが出てくるわけで……


 「松山お前ふざけんな!?絶対不正したやろ!」

 「せや、陸上部のお前が野球部とバスケ部よりもボール投げれるわけないやろ!!」


 大村と同じ、前回で俺が喧嘩で負けた相手…喧嘩慣れしたクソ陽キャの里野と山峰が俺が体力テストで不正したと難癖つけてきたのだ。

 前回時に喧嘩で負けたことと、それ以前の学校生活で何度も嫌がらせされたことの恨みから、俺は「うるせぇ!!」と里野を蹴っ飛ばしにかかった。腹ど真ん中を狙った一発……しかしこれもあまり効かないんだろうなと予想する。里野はサッカー部にしてはゴツイ体をしていて、喧嘩慣れもしている。完全に相手が悪い。


 さすがにこいつ相手に正面からの喧嘩は無理か……と思っていたのだが、またしても予想が覆ることに。


 「う、ごぉおお……」


 俺の蹴りをくらった里野は腹をおさえて、膝を地につけてうずくまっていたのだ。またも思わぬ結果にびっくりする本人と周りの奴ら。


 「な……!?マグレかましたからって、調子に乗んな!?松山の分際で!!」


 これまで陰キャだった俺が学年カースト上位である自分らに手を出してきたことが気にくわないと、山峰が俺をボコりにきた。こいつには里野以上に嫌な思いをさせられてきた。特にひどかったのが中2の時、同じクラスだったこのデブから散々嫌がらせされ、痛い目にも遭わされた。小学時代の時も……ああ思い出したらクソムカついてきた!!殴ろう!!


 「るせぇ、クソデブがっっ」


 掴みかかってくる山峰に対し、こっちは怒りに任せて里野の時同様に拳を大きく振った。

 ドキャと少し硬いものを殴りつけた感触。続いて山峰のと思われる短い声。偶然にも顔面に命中したようだ。とはいえ当時は俺より体重が10キロも重く、デブとはいえ喧嘩慣れもしてるこいつが、喧嘩歴ほぼ無の俺のパンチ一発で沈むわけ………が?


 「あれ?起き上がってこねー?」


 5秒、10秒経っても、山峰は顔を押さえたまま中々起き上がってこない。とはいえ油断ならないので二人に追撃をかましておいた方がいいな。

 そう思ったのだが騒ぎを聞きつけた体育の先生が来てしまい、おひらきとなった。結果として俺は喧嘩で里野と山峰どちらにも見事圧勝してみせたのだった。


 「マジか……。前回は惨敗やったのに。明らかに俺喧嘩が強くなった?いや、喧嘩が強くなったというより、パンチ力・キック力が増しとるんか?」


 大振りのパンチ、腰がやや引けた蹴り。明らかに喧嘩慣れしてない素人丸出しだったと思う。となると、勝因はやっぱりパワー?筋力にものいわせて、あの二人をのしてやった…ということ?


 「………これってさぁ、まさかのアレなのか?」


 この時点で俺は一つの可能性に思い至った。どうしてパワーが増しているのか。足が速いと言われるようになったのか。


 というか俺、本当に足が速いのか?


 その真実を確かめるべく、新学期最初の記録会に出場してみることに。レース前のアップをしていて思ったのが、全然出力を上げてないのに、当時よりもずっと速く走れてる気がする…だった。練習でみんなが言ってた通り、本当に速くなってる気がする…!


 そしていざレース。スタートラインにつく前、背筋と骨盤をまっすぐ立てて、そのまま前傾姿勢をとる。股関節に圧をかけながら静止し、「用意」で腰を高く上げ、号砲を耳にした瞬間左のブロックを蹴り押して飛び出す。


 ――!?


 あれ?この頃の俺、こんな強い力出せてたっけ?腕振りもなんか強くね?うわ、一次加速かなり良くなってる。これならスッとトップスピードにもってける…!

 80m…トップスピードの維持がしんどくなってきた。だけどあんまり減速してる気がしない………あ、ゴールした。


 今回のレース、組は俺が一着をとり、全体でもなんと上から3番目に位置づけられていた。

 タイムは、11秒55。やり直し高校ベストとあまり変わらないタイムだった…!


 「………明らかに速なっとる…っ 腕振りとか地面を押し出す時とかのパワーも、前回と比べてだいぶ増しとった…!

 これはもう、間違いないやろっ」


 これだけ材料が揃えば、もう確信していいだろ!



 今回のやり直しはなんと―――外見を除く「全て」を引き継いだ状態でのスタートとなってます!!!


 1回目時は30歳時の自我・記憶・知識のみの引き継ぎだった。しかし2回目となる今回は、それらに加え1回目終える時点の身体の筋力・足の速さなど身体能力・機能をも引き継がせてくれてたんだ!

 外見はこれまで通り中3当時のままだが、筋力・俊敏性・持久力・反射神経などあらゆる身体能力・機能全て、やり直し1回目の高校2年生時となっている。


 要するに、見た目は中学生だが頭脳も力も高校生レベル!!


 いったい何が原因でこんなことが起こったのか、分かりきってる。タイムスリップの引き金である、あの古びた懐中時計だ。

あの懐中時計にあった「Reset」ボタンを押したことで、1回目同じ時代…中学3年の春までタイムスリップし、やり直し人生が始まった。それも、1回目で培い得てきたもの全てを引き継いだ状態から始められるという、特大な特典付きで。


 「マジか………マジだ。大マジや……!

 リアル・強くてニューゲームや…!!」



 この世界でただ一人…俺だけが人生をリセットすることが出来る。

 そう分かった瞬間、俺はすごいことを思いついた。


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