第83話 フワフワのモフモフのカワイイ

 街を一緒に歩き、ちょうどいい時間になった。

 今日のところはひとまず解散だな。


 「なあ、今日の俺たちの寝床なんだけど……」

 「俺の家を自由に使ってくれていいよ。どうせ使ってなかったしさ」


 俺はハルトちゃんとループスさんに自分の家を使ってもらうことにした。

 今日はレミのところに帰った方がいいだろうし、使えるお金がない二人に宿を使わせるのを強要するのも酷な話だ。

 

 というわけで二人を再び俺の家に上げた。

 昨日は話せていなかったし、この家にあるものの場所とか使い方とかぐらいは教えておかなければ。


 「というわけで家にあるものは自由に使ってくれていいぞ。帰るときに家の中を片付けてくれればどう使ってくれてもいいから」

 「悪いなぁ。何から何まで」


 ハルトちゃんとループスさんは嬉しそうだ。

 まさか使ってない家を一時的に貸すだけでこんなに喜んでもらえるとは。


 「ところでさ。クロナ、さっきから気になってたことがあるんだけどさ」

 「え、何?」

 「クロナってもっと女の子しないの?」

 「えっ……!?」


 ハルトちゃんからのとんでもない発言に俺は意表を突かれた。

 ループスさんはハルトちゃんの後ろで呆れてため息をついている。

 

 「女の子するって、具体的にはどういう……」

 「言葉通り、周りに可愛いと思わせるような仕草してみるとか、もっとオシャレしてみるとか」

 

 ハルトちゃんは具体的なアイデアを提示してきた。

 いや、それは俺が女の子になったばかりの頃にレミから教わったつもりだったんだが……


 「俺ってそんなに女の子っぽくない?」

 「まだまだ足りないな」


 俺が尋ね返すとハルトちゃんはきっぱりと言い切ってきた。

 そこまで言われるとちょっと凹むなぁ。


 「じゃあ、どうすればもっと女の子っぽくなると思う?」

 「ふっふっふ……それはだな」

 「やめとけクロナ。そいつにそんなこと聞いてもろくなことにならんぞ」


 ループスさんは制止にかかったが時すでに遅し。

 ハルトちゃんはすでに俺の右手に擦り寄ってきていた。


 「こんな風に身体をくっつけてみるとか?」

 

 ハルトちゃんは身体をくっつけたまま話しかけてくる。

 体温が直でわかるぐらい密着し、上目遣いで俺の目を見てくる姿はハルトちゃんの正体が元男だとわかっていても可愛らしいと感じざるを得ない。


 「他には感情をもっと表情に出して表現してみるとか、あと大事なのは自分が男だという認識を捨てることだ」 

 

 しれっととんでもないこと言うなこの子。

 そんなこと簡単にできるわけないじゃないか。


 「そういうハルトちゃんは男の自覚を捨てられたの?」

 「まあな。人前で捨てるぐらい平気ってもんよ」

 

 ハルトちゃんは堂々とそう言い放つ。

 確かにこれまでの仕草とかを見てるとそれっぽく振舞ってるときは一人称以外はマジで男っぽさを感じられないんだよな。


 「そこに至るまでにはどうすればいいかな。てかハルトちゃんはどうしてそこまでなれたの?」

 「えっ。まあ、それはな……」


 ハルトちゃんは言葉を詰まらせてしまった。

 ここまで自身に満ち溢れていて飄々としていたのに何があったんだろう。


 「ループスさんは知ってますか?」

 「いや、俺にもわからん。頑なに教えてくれないからな」


 ループスさんでもハルトちゃんについて知らないことあるんだな。

 本当に何があったのか気になるんだが真相はハルトちゃんのみぞ知るところか。


 「それはそれとしてハルト。お前は重要なことを忘れているぞ」

 「重要なこと?」

 「クロナには俺たちのような耳と尻尾はない」

 「あっ」


 ループスさんに指摘されたハルトちゃんはふと我に返ったような声を出した。

 そりゃそうでしょ。

 俺は半獣人じゃないからそういうものは持ってない。

 だからハルトちゃんと同じような仕草をとっても彼女ほど小動物っぽくはできないのだ。


 「……というわけだけど」

 「悪い。自分が当たり前にやってたことだったけど半獣人にしかできないってことを忘れてたわ」


 ハルトちゃんは自分の見落としを素直に詫びてきた。

 だがそれはそれとして『女の子っぽさが物足りない』に関しては自分としても思うところがあったな。


 「勢いで無茶言っちゃったし、お詫びと言っちゃなんだけど俺のことモフモフするか?」


 とんでもない無茶ぶりをしようといていたことを自覚したハルトちゃんはそういうと俺の膝の上に腹を乗せるように寝そべり、尻尾を差し出してきた。

 発言から実行までがあまりにも早すぎる。

 ここまでされて触れないというのも逆に失礼かと思った俺はハルトちゃんの尻尾に触れることにした。


 「すごっ……柔らかっ……」


 初めて触れる半獣人の尻尾の毛並みに俺は感動すら覚えた。

 フワフワしていて指に力を入れたらどこまでも沈んでいきそうだ。


 「へへへっ、すごいだろー。毎日時間かけて手入れしてるからな」


 ハルトちゃんは得意げに自慢する。

 自分が可愛いことを自覚したうえで長所を磨いてるってところか。


 ところでこれって奥まで手を入れたらどうなるんだろう。

 俺は好奇心のままに毛をかき分けてハルトちゃんの尻尾の奥に手を突っ込んでみた。


 「ふわぁっ⁉︎奥に手を突っ込んだらダメ!」


 ハルトちゃんは甲高い悲鳴を上げながら慌てて引っ込んだ。

 上から触るぐらいなら平気でもその奥に触れられるのはダメなのか。

 半獣人の身体は奥深いんだな。


 

 「触っていいとはいったけどさ、あんまり奥には触らないでくれ……」


 ハルトちゃんは自分の尻尾を手前に回して抱き抱えながら忠告してきた。 

 彼女から不意に出された外見とは不相応な色気に俺は思わずドキドキさせられたのであった。

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