第7話 クロナちゃんとレミとお風呂

 夕食を済ませた俺はレミから借りた自室にて一人の時間を過ごしていた。

 今日一日の間に起きた出来事を思い返すとあまりの情報量の多さに頭が爆発しそうになる。

 

 女の子になって身体のこととかオシャレのこととかいろいろ教えてもらったっけ。

 あとは一日以上一緒に過ごして今までは見えなかったレミのいろいろな面が見えた。

 実は社交的で、女の子としては結構しっかりした一面もあって、でも友人を女の子にして興奮する上に常識にかなり疎くて私生活がすさまじくだらしない。

 まだしばらくはレミと一緒に過ごすことになるだろう。

 新しい自分のことを知るのも大事だが同居人のことも知っておかなければ。


 「やあ、まだ起きているかな?」 

 

 一人ベッドの上でぼんやりしているとレミが部屋を覗きに来た。

 その口ぶりからするに何か用事があるようだ。

 というか寝るにはまだ早い時間なんだが。


 「起きてるけど」

 「お風呂に入りたまえ。女の子たるもの、身体は清潔にしなければね」


 レミは入浴を促してきた。

 そうだ、まだ風呂に入っていないんだった。

 

 「そういうお前はちゃんと風呂に入ってるのか?」

 「もちろん。薬品がついたまま寝たり外出したりなんて論外ではないか」


 錬金術絡みのことになると急にまともになるんだよなぁ。

 ともかく、そこは俺の心配の及ぶ場所じゃないようだ。


 自室から浴室に移動し、脱衣所で服を脱ぎ捨てて浴場へと足を運んだ。

 そこはレミの自宅の中でほぼ唯一といってもいい『まともな日常を送れる』場所であるように見えた。

 ここは安心して使えそうだ。


 俺は浴場にて鏡越しに自分の裸体を見た。

 朝は自分の上半身しか見なかったが、こうして全身を見るとやはりかつての自分の面影なんてどこにもない。

 

 「へぇ、女の子の身体ってこういう……」


 こうして自分の身体をまじまじと見ていると自然と興味が出てくるものだ。

 俺は意識して自分の肌に触れていた。

 初めて触れる母親以外の女の子の肌がまさか自分の身体になろうとは……


 男の頃の硬くゴツゴツした感じはまったくない。

 むしろ真逆のすべすべで柔らかい感触すら覚えるほどだ。


 というか髪長っ……

 男だった時はここまで伸ばしたことなんてなかったんだよな。

 女の子ってみんなこんな感じなのだろうか。

 この身体はレミが考える『理想の女の子』を具現化したような姿らしいし、よく作られているのは間違いないが。


 「やあ。初めて見る自分の裸はどうかな?」

 「うわぁ!?なんだいきなり!」


 自分の身体を観察しているところへまたレミが覗きにやってきた。

 見られた……自分の身体をペタペタ触ってるところをよりにもよってレミに見られた……


 「失礼させてもらうよ」

 「いや、入ってくるな!」

 「そうはいっても君は身体の手入れの仕方とかわからないだろう」

 「それはそうだけど……」


 俺は女の子のことはこれっぽっちも分からない。

 レミに教えてもらわなければおかしなことをしでかすだろうという自覚も残念ながら芽生えてしまった。

 だがそれを差し引いても大きな懸念事項が教えてもらう相手がよりにもよってレミというところだ。


 「遠慮することはない。今は私と君は女の子同士ではないか」

 「だったらその気色悪い笑みを浮かべるのをやめろ」

 

 俺の制止も聞かずレミは風呂場に乱入してきた。

 誰かと風呂に入るのなんて久々だがこれも相手はよりにもよってレミか……


 意図せずレミの裸体を見ることになったが男だった頃の名残でつい彼女のおっぱいに目が行ってしまった。

 普段は目立たないがこうしてみると結構大きいんだな。

 それと見比べると俺のはずいぶんと慎まし……

 

 「どこを見ているんだい?」

 「いや、別にどこも……」


 いや、これは負けではない。

 俺とレミじゃ身長差があるんだからあっちの方が大きいのは当然のことだ。

 いずれは俺もあれぐらいに……


 「身体を洗うなら髪の手入れからするといいぞ」

 「え。どうして?」

 「一番時間がかかるからさ」


 ほう、女の子ってそこで時間を使うのか。

 だがどうして時間がかかるのかなどはまったくわからない。


 「どうやってるんだ?」

 「やってあげよう。そこに座りたまえ」


 レミに言われるがままに俺は小さな台の上に腰を下ろした。

 その後ろにレミがつき、俺の髪に手を触れる。


 「さらさらでいい手触りだ。流石私が作っただけのことはある」

 「自惚れてないで早くしてくれよ。時間かかるんだろ?」

 「そうだったそうだった。では始めるよ」


 レミは備え付けられていたシャンプーを手のひらに垂らすと両手にそれを揉みこんだ。

 そして再び俺の髪に触れ、揉みこんだシャンプーをなじませるようにじっくりと手を入れていく。

 なかなかに繊細な手つきだ。

 

 「髪は女の子にとって命の次に大事なものって言われていてね」

 「そんなに大事なのか?」

 「もちろん。多少容姿が悪くても髪が綺麗に整ってるだけで与えられる印象がよくなるし、髪形を変えるだけで雰囲気も全然違うものになる」


 女の子の常識にはまるで疎い俺だが今レミが言っていることはなんとなく理解できる。

 それは男にも当てはまる事象でもあるからだ。

 同じ人でもボサボサ頭、横分け、丸坊主で全然違って見える。 

 女の子の場合は特にそれが顕著ということらしい。


 「あ、そうそう。シャンプーは直接髪にかけてはいけないよ」

 「え、なんで」

 「シャンプーそのものは刺激が強い洗剤だから直接かけると髪を傷める原因になるのだよ」


 なるほど。

 女の子の身体っていろんな部分が繊細なんだな。

 今までみたいに雑にしてるとすぐに表に出てしまうようだ。


 そんなこんなでレミに手入れをしてもらうこと数分。

 ようやく髪全体にシャンプーが行き渡ったところで洗い流した。

 心なしかすっきりしたような気がする。


 「さて、髪を洗ったところで次は身体をすみずみまで……」

 「そこは自分でやるから手を出すな!」


 レミが両手をワキワキと動かしながら準備していたがそれを即答で拒否した。

 それこそ何をされるかわかったものじゃない。


 結局その後はレミからなにかをされることもなく風呂を上がった。

 レミ曰く、髪を乾かすのにも時間がかかるらしい。

 命の次に重いって言われるぐらい大事にされる理由がなんとなくわかった。

 


 「レミ。明日は冒険者登録をやり直すから付き合えよ」

 「構わないが。たった一日で大丈夫かい?もっと慣れてからでも……」

 「いいんだよ」


 髪が乾くのを待ちながら俺はレミとやり取りを交わす。

 こうして俺は冒険者登録に付き合わせる約束を取り付けたのであった。

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