【第二部開始】女城主、戦国乱世に再臨す ~今世はのんびり過ごすはずがなぜか『女孔明』と呼ばれてます~

鷹山誠一/小鳥遊真

第一部 伏龍鳳雛編

プロローグ 天正三年(一五七五年) 一一月二一日『処刑、そして再臨』

苦しい。気持ち悪い。つらい。


 頭がガンガンと痛み、ぼうっとする。




 甥の信長に逆さ磔の刑に処されてから、もういったいどれぐらいの時間が経っただろうか。


 わからない。もう正直、気が狂いそうだった。




 逆さ磔の刑が最も過酷で残酷だと言われる理由がよくわかった。




 最初の頃は大したことはなかった。


 だけど頭に血が上ってきてからが地獄だった。


 呼吸はうまくできないし、体重が肩にかかって痛いし、呼吸もできないし、眠ることさえできない。




 早く! 早く殺して!


 この苦しみから解放して!




 ただそれだけが、わたしの望みだった。


 だが、苦しみは続く。


 いつまでもいつまでもいつまでも!




「はっ!?」




 気が付くと、わたしは学校の机の上にうつ伏せていた。




 ここは……学校?


 わたしはつや……じゃない。高尾瑠璃、七歳の小学二年生だ。




「ゆ……め……?」


 思わずつぶやく。


 それにしては、あまりにも、そうあまりにもリアルな夢だった。




 わたしは夢の中で、つやという名の女性だった。


 織田信定の娘として生まれ、四度結婚し、そしてその全てと死に別れた。


 そして最期はわたしも、甥である織田信長に……




「ううん、こんなの絶対夢じゃない!」




 なぜって思い出せるのだ。


 人生のすべてが。




 初めての夫の顔も、名前も。確か日比野清実殿だ。


 初夜の時にとても緊張したことも。


 戦死と聞いた時の悲しみと絶望も。




 二番目の夫とは、結婚してすぐに戦に駆り出され、ほとんど顔を見ることもなかったけれど、三番目の夫の遠山景任殿とは、子供こそできなかったけどけっこう仲良くやれてたと思う。


 甥の信長から養子、御坊丸をもらい、この子もわたしにとても懐いてくれて、めちゃくちゃ可愛かったのを覚えている。




 でも幸せはいつまでも続かなくて、景任殿も結局わたしを置いて戦場での怪我が原因で病死。


 まだ後継ぎの御坊丸は小さくて、わたしが代わりに岩村城の女城主として頑張ったのだ。


 それはもう必死に必死に頑張ってたんだけど……


 武田家の将、秋山虎繁に攻められて包囲されて……




 なんか一目惚れされたのよね~(笑)




「おつや殿! 俺の妻になってくだされば、御坊丸殿の命も、領民と兵士の命も保障しましょう。俺が欲しいのは貴女だけです!」




 皆の命もかかっていて、わたしはこの求婚を受け入れざるを得なかった。


 少なくとも、当時のわたしにはそうするしか道はなかったのだ。




 最初は敵ってことで反発もしていたんだけれど、そんな熱烈に愛してもらえると、わたしも悪い気はしない。


 なんだかんだほだされて本当の夫婦となり、一男一女にも恵まれ、幸せだった。




 多分あの時が、人生で一番幸せだったと思う。


 この人に会うために自分は生まれてきたんだ、とか思ったものだ。




 けどやっぱり幸せはそう長くは続かなくて……




 夫の虎繁が守る岩村城は天正三年、姪孫の織田信忠に攻められ、包囲されてしまう。


 決死の反撃をするも撃退され、わたしたちは降服したのだ。


 今は敵同士になってしまったといっても、信長は実の血を分けた甥、謝れば許してくれる。


 そう信じていたのだけれど、




「なぜ!? 降伏すれば命だけは助けてくださると!」


「やかましい! この織田家に仇為す疫病神が! 死んでその罪を償え!」




 激怒した信長にずっと仕えてくれていた家臣たちも皆殺しにされ、わたし自身も逆さ磔の刑に処され……




 ぶるっ!


 思わず恐怖に身体が震える。歯がカチカチとなる。




 殺された家臣たちの顔が次々と脳裏に浮かぶ。


 罪悪感と後悔で、胸が圧し潰されそうだった。


 もう二度と、二度とあんな目には遭いたくない。




「って、そんなことにはならない、よね」




 記憶にあるのは幼稚園の年長ぐらいからだけど、それでも今がとても豊かで平和な時代であることぐらいはよくわかる。


 お母さんの作るご飯は美味しいし、お菓子はとっても甘いし、娯楽もいっぱいあって毎日が楽しい。




「せっかく生まれ変わったんだもの。今を楽しもう」




 グッと拳を握り、わたしは誓いを新たにしたのだった。


 そしてその後、普通に大学を出て、普通にOLとして働いて、歴女として充実したお独り様ライフを送っていたのだが……




「って、なんでまたつやになってるのよっ!?」




 気が付くと、また戦国時代に舞い戻っていた。


 ホワイ!?


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