第21話 第一王子視点2 夢の中で幼馴染のマイラにキスしたつもりがニーナにキスしていました

俺はニーナとのことを考えて良く寝れなかった。


変だ。絶対におかしい。あんな地味で大人しい、いや、それは最初はそう思っただけで、あいつは地味で大人しくはない。特に大人しくは絶対にない。


最初に見た時は地味だと思ったが、よく見るとくりくりした黒目はいつも落ち着き無く四方をキョロキョロ見ているが、そんな様子も可愛いし、おしゃれした特にきちんととかした黒髪はきれいだった。


それに冒険者崩れに襲われた時に俺たちは助けたが、あのままならあいつ一人でも全員やっつけられたのではと思うくらい気は強かった。

何しろ一人は火の魔法で全治一ヶ月の重症を負わせたのだから。


オリエンテーションの異性を連れてくる時の、生徒会の打ち合わせをしている俺を誘った強引さはピカ一だった。

それも上目遣いにあの目で見てくる仕草とか本当にあざとかった。

そして、最後は拝み倒されると、もうどうしようもなかったのだ。

氷の生徒会長が落ちたと言われても仕方がなかった。

その瞬間仕方無しについていったのだから。


断ろうと思えば断れたのに!


後で散々アクセリに指摘されたのだがそのとおりだった。


少なくとも仕方無しにエスコートはしてやっても良いと思ってしまったのだ。

可愛い後輩として。


連れて逃げたのはここにおいておいたら流石に不味いだろうと連れて出ただけなんだが……


離れたくないから連れ出したんじゃないのか?

とアクセリに言われてそういう面が全く無かったと断言は出来なかった。少なくとももう少し一緒にいても良いと思えたのだ。


その後たまたま見せたサアリスケ男爵家の不正も簡単に見つけてくれたのには驚いた。


なんとも先が読めない少女だったのだ。やることなすこと面白かったし一緒にいて楽しかったのだ。


そんなことを考えていたら、その日はなかなか寝れなかった。



そんな翌日は当然寝不足だったので、いつもの図書館の隅で昼寝をすることにしたのだ。

執務室や生徒会室では誰かがいるし、昼寝なんてさせてもらえない。

基本的に邪魔されずに寝れるのは俺にとって図書館だったのだ。


その時に俺は久々に幼馴染のマイラの夢をみた。学園に入ってからはなかなか見舞いにも行けていない。


従姉妹のマイラは子供の頃から病弱だが、俺は良く一緒に遊んでやっていたのだ。


「お兄様、お兄様」

と良く俺につきまとっていた。

そんなマイラに子供の頃は挨拶代わりにたまにキスしてやっていたのだ。


そんなつもりでキスしたら、何とその相手はニーナだったのだ。


ええええ! 俺は何故ニーナがここにいるのか理解できなかった。


「し、失礼します」

慌ててニーナが俺を突き放すと脱兎のごとく駆けだしたのだ。


「に、ニーナ嬢」

俺は叫んだが、脱兎のごとくニーナ嬢は駆けて行って起きがけの俺は追いかけられなかったのだ。


その後現れたアクセリに

「ニーナ嬢が飛び出していったが何かあったのか?」

と問われてそのまま話したら、


「お前は何をしているんだ!」

と呆れられた。


「人違いでキスするなんて、どうするつもりだ!」

と延々怒られたのだ。


俺もまさか寝ぼけてキスしたなんてニーナには言えずに途方に暮れた。


それでもとりも直さず、謝りに行ったら、ニーナは友達のハナミ商会の娘に隠れて、真っ赤になっている。

これは完全に不味い。


「ライラ嬢。少しニーナ嬢をお借りできないだろうか。話すことがあって」

「いえ、会長。私は何もないです。別に気にしないで下さい」

ニーナは俺との話も拒否してくれたのだ。

まあ、間違えてキスしてしまった手前、俺も強くはいえないのだが、


「先程は本当に申し訳なかった」

俺は素直に謝ったのだ。


「止めて下さい。会長。こんなところで。本当に何ともありませんから。ではさようなら」

ニーナは友達のハナミ商会の娘を引っ張って逃げて行こうとした。


「いや、ちょっとニーナ嬢」

俺は追いかけようとしたのだが、そこにユリアナが現れて邪魔してくれたのだ。


本当にこの公爵令嬢は邪魔な時に出てくる!


そのユリアナは

「もの事を弁えない平民が多くなった」とか、

「たまたま、殿下にエスコートされていい気になっている」とかグダグダニーナの悪口を俺に言ってくれたのだが、俺も少し頭にきたので、

「ユリアナ嬢。俺としては君のほうがよほど弁えていないと思うのだが。そもそも君は今授業ではないのか」

そう少し苛ついて言うと泡を食ったように消えていった……


俺はニーナにどうやって謝ろうかと悩んだ。


そう言えば今は一年生は魔法適性検査の時間だ。

それで皆で大教室にいるのだろう。


俺はあのニーナの魔法適性も気になった。


王宮の魔法師団にも癒やし魔術を使えそうだとあげていたのだが、それからうんともすんとも言ってこない。


調べてはいるはずなのに。俺に報告がないのは何故だ? と少し切れていると物陰で不審な動きをするピンク頭を見つけたのだ。


こいつは魔法師団長のカーリナ・ウルホだ。


「何をしている。カーリナ」

俺が声を開けると

「ひっ」

カーリナは飛び上ったのだ。


「で、殿下」

「こんなところで何をしているんだ」

俺が問いただすと

「いえ、別に」

カーリナは俺と目も合わせない。これはろくでもないことを企んでいる証拠だ。


「まあ良い。こんなところにいるのだ。一年生の魔法適性検査の件だな。一緒に見よう」

「いや、殿下、私は」

逃げようとするカーリナの手を掴むと強引に部屋の中に入ったのだ。


そして、後ろの席に座った。


後ろの席には教師連中がペトラ先生を筆頭に結構いるのに驚いたが、皆俺らに軽く頭を下げてきた。


「で、何をコソコソしていた?」

「いや、殿下から教えて頂いたあの子の事が私も気になったので、見に来たのです」

「なら、何故中に入らずに外にいた? どうせ、碌でもないことを画策しているのだろう!」

「そんな、滅相もありませんよ。一応陛下の許可も取ってありますし」

「父の?」

「はい」

カーリナが言うんだけれど、信用できなかった。


俺は逃走できないようにカーリナの手を掴みながら適性検査を見た。


適性検査はどんどん進んでいく。


そして、ニーナ嬢の時に、

「殿下、少しお手洗いに行きたいのですが」

少し辛そうにカーリナが言い出した。


絶対に怪しい。


「ふん、ニーナが終わってからな」

「いえ、そんな殿下」

カーリナが悲鳴を上げるが無視だ。


ニーナは紙を検査液の中に付けた。


普通は水と火が出て、全体が虹色に光るはずだった。

ニーナの故郷で聞き込みをしたところ、子どもたちはニーナに水を頭から良くかけられていたらしい。当然水魔法が強く出るはずだった。


ところがだ。

ニーナの掴んだ紙は全体がグレーに染まって青がほんの気持ち程度に少しだけしか無かった。


「カリーナ、これはどういうことだ?」

俺は怒りに震えながらカリーナを睨みつけた。

「ニーナが風なんか使えたのか? 得意な水も火もないし、癒やしは全く出ていないが」

「いや、陛下の指示でして、あまり癒やし魔術が使えるのを公にしたくないという陛下のご意向です」

「でも、火と水は関係ないだろうが」

俺が怒って言うと

「いや、風が出たということは風も彼女は使えるはずで、出来たら4属性公平に鍛えると癒やし魔術も伸びるそうです」

なんかカーリナが言ってくれるんだが、それと得意な属性を隠すのは別ではないかと俺は思った時だ。


いきなりニーナが水魔術をぶっ放してニーナを馬鹿にしていたヴィルタネンもろとも弾き飛ばしたのだ。


あたりは大混乱に陥って、収拾するためにペトラが向かったのだが。


「おい、どうするつもりだ。お前のせいだぞ」

「ええええ! あの子に水魔術出させたヴィルタネンが悪いですよね」

「お前が変な結果が出るように検査紙を悪用するからだろう。この混乱はお前が納めろ」

「いや、殿下。ペトラ先生の前だけは止めて!」

俺は必死に逃げようとするカーリナを無視して

「ペトラ先生!」

大声で先生を呼んだのだ。


「彼女が話したいことがあるそうです」

「ちょっと殿下、何言ってくれているんですか」

カーリナは必死に逃げようとしたが、俺は前まで引っ張って言ったのだ。


「これはカーリナ。久し振りですね」

ペトラ先生がカーリナを見ていった。

「お久しぶりです。先生」

カーリナはできる限りペトラ先生から離れようとしたが、

「で、今回の適性検査の件、どうなっているのですか」

ペトラ先生は核心を聞いてきたのだ。

完全にペトラ先生は犯人がカーリナだと判ったみたいだ。


「えっ、何の話ですか?」

「判っていますよね。カーリナ」

ペトラ先生はにこりと笑ってカーリナ魔法師団長を見た。

「そう、どうしてこうなったか、俺も知りたいんだが」

俺も横で言ってやったのだ。


「いや、これも色々ありまして」

カーリナは愛想笑いして誤魔化そうとしたが、

「カーリナ。最近魔法士の礼儀作法がなっていないと王宮から文句が上がっているのです。なんでしたら、全員もう一度私が一から鍛え直しましょうか」

「いや、先生。それだけはやめてください」

必死に叫んだカーリナはペトラ先生と俺を端に連れていくと

「今回は陛下の指示なんです。だからうまく収めて下さい。お願いします」

ペコペコペトラ先生に頭を下げだしたのだ。

よほど学園のときにペトラ先生にしごかれたらしい。


そして、さんざん頭を下げると皆を乾かして俺たちが反論するまでもなく、さっさと転移で逃げて行ったのだ。


俺は埒が明かないので詳細は父に聞くことしようと思ったのだ。

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ここまで読んで頂いてありがとうございます。

果たして適性検査の結果のクラス分けはどうなるのか?

それと殿下とニーナの仲は?

続きは明朝です。

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