第13話 第一王子視点 変な平民の子を助けたら、学園で一緒に踊ることになってしまいました

俺の名はヴィルヘルム・カルドアヴィ。このカルドアヴィ王国の第一王子だ。

今は王立学園の三年生で、生徒会長もさせられている。


そんな俺が決算書の数字が怪しいと会計監査院から報告があって、サアリスケ男爵家の横領の調査に赴いたのは半年前の事だ。


その時、せっかくだからと国境の騎士団の視察も兼ねて訪問した国境の村で、俺は光魔術の発現をこの目にしたのだ。


それは黒い髪の毛の地味な女の子が、こけて血まみれになった子供に癒やし魔術をかけたのを見たのだ。

女の子は葬儀中なのだろう。黒目黒髪なのに更に真っ黒な衣装に身を包んでいて本当に見た目は目立たない女の子だった。


でも、光魔術の使い手をそのままにしておくわけにはいかない。

ほっておくと人攫いに拐われて奴隷として他国に売られる危険性もあるのだ。


ガラの悪そうな冒険者達がその子を側で見ていたのも気に入らなかった。


俺は探りを入れさせると、やはり冒険者共は偶に辺境の地で人攫いもやっており、奴隷商人とも繋がりがあった。もし、サアリスケ男爵家が関わっていたら当然お家お取り潰しだ。

当主は処刑だろう。

でも、つながりがあるかどうかはすぐには判らなかった。


「どうする。女を囮にして奴らを奴隷商人まで案内させるか」

感情に左右されないアクセリはドギツイことを言ってくれた。

そこまで助けないと、女の子が無事にいられるかどうか判らないではないか。


「光魔術は、病気にも効くかもしれないから早めに手を打って欲しい」

親戚の子が難病を患っているアスモが言い出したが、光魔術の一種である癒やし魔術が病人にまで効いた事はほとんどないのだ。そんな事が出来たのは魔王退治をした伝説の大聖女だけだ。それ以降はいくら聖女と言っても怪我しか効かない。


この子もその可能性は殆ど無いだろう。


アクセリは出来たら奴隷商もろとも組織を壊滅させたがった。


しかし、癒やし魔術は貴重な担い手なのだ。

俺はさっさと手を打つことにした。


女の子の家を見張っていると男たちがやってきた。


窓をこじ開けて男たちが中に入っていく。


俺は見張りの男を一発後頭部を殴って気絶させると中に入った。


女の子は男に伸し掛かられていて寝巻きを切り裂かれていた。


男たちは女の子を慰み物にして奴隷商人に売りつけるらしい。とんだくずだ。


怒った俺は女の子に乗りかかっている男を蹴り倒した。


しかしだ。その直前に俺は目を見張った。


今までやられ放題だった女の子が反撃したのだ。


炎の魔術で。


俺は炎まみれになった男を蹴倒していたのだ。


男は全身火だるまになって火を消そうと地面をのたうち回っていた。


この女はやる!


そう思ったところで「ウィル、後ろだ」

アスモに言われて避けると殴りかかってきた男を投げ飛ばしていた。


「大丈夫か、お嬢さん」

俺は少女に声をかけた。


「は、はひ。アイがとうございまちゅ」

少女は赤くなっていた。


「さ、これを着て」

俺は自らの上着を少女にかけてやったのだ。

最初は遠慮していた少女も服が裂けていると言うと真っ赤になって上着を受け取っていた。少しは可愛いところもある。


しかし、その後現れた近所のおばちゃん達の怒りは凄まじく、襲った冒険者達の一物をちょん切ってしまいそうなほどだった。

俺達はあまりの凄さの前に、身分がバレるのも不味いし慌ててその場を退散したのだ。


俺はその時に上着を回収するのを忘れたのだ。



まあ、大した上着ではないし、その後、女の子からの会ってお礼が言いたいという申し出は丁重に断った。


こんな辺境の地の平民の子と会っても、その後、どうということはないとは思ったが、俺は見目麗しいからか、女たちは俺を見ると寄ってきてうるさいのだ。

出来る限り女がらみの厄介事は避けるようにしていた。


サアリスケ男爵家と奴隷商の関係も冒険者崩れを尋問しても出てこなかったので、俺は今回は男爵家はお目溢しをすることにした。まあ、横領の金額自体は大したこともなかったのだ。

それよりも、魔術の優れた若者が報告されたからと言って少女を男爵家から王立学園に入れるように仕向けたのだ。


それで全てが終わりのはずだった。学園に入ればきちんと保護されるだろう。あのおばちゃん達がいればしばらくは変なことをするやからも大人しいはずだ。


王立学園には俺も在学しているとはいえ、学年も違うし、会って話をすることもないだろうと俺は高をくくっていたのだ。

何しろ俺は髪の色も目の色も変えて変装もしていたし、大丈夫だと思っていたのだ。


でも、それが間違いだった。


まず、この子の最初の印象が地味というのは間違いだというのは、入学の式典の時に判明した。


なんとこの子は現役の伯爵である学園長の目の前で大きなイビキかいて寝ていたのだ。

よだれまで垂らしていた。


王子の俺の前でも同じだった。普通、俺の前でよだれ垂らして寝るか? こんな失敬な事をされたのは生まれて初めてだ!


あまりにもムカついたので、周りの奴らに起こさせたのだ。


そこまでは問題なかったのだが、そこで「ニーナ嬢」と名前を呼んだのが間違いだった。


「おいおい、彼女をお前がいくら知っているとはいえ、名前を呼んだのはまずかろう」

副会長のアクセリに注意されるまでもなかった。いつもはそんなヘマはしないのに、あまりの事に俺も動揺していたのかもしれない。


なんとその後の借り物競争の時に、その子にパーティーで踊って欲しいと頼まれてしまったのだ。俺は、助けたのが俺だと少女に知られてしまったと勘違いしてしまった。

まあ、頼みにきた彼女の行動が少し笑えたというのもあったのだが、俺は仕方なしに頷いてしまったのだ。


「きっちりと二度と近づくなと釘を刺しておけよ」

アクセリには注意されるわ、近衛のヘルマンニには、

「殿下も女にひっかけられることがあるんですね」

「氷の生徒会長の汚名返上ですね」

とアスモにまでからかわれて最悪だった。


俺は仕方なしに今回は踊るが二度とは踊らないとしっかりと釘を刺すつもりでいたのだ。


しかし、ニーナは俺が彼女を助けたウィルだとは全く気付いていなかったのだ。


彼女が言うには、たまたまその場にいた借り物競争に付き合ってくれそうな優しい先輩が俺しか居なかったから頼んだというのだ。


そもそも、借り物競走の相手が、パーテイーでエスコートしてくれるなんて知らなかったそうだ。確かに、俺が説明した時に彼女はよだれを垂らして寝ていた。俺がその現場をこの目でしっかりと見ていたからよく分かる。


そして、更にはだ。人気ナンバーワンの自負のある俺を前にして、好きな相手は別にいると宣ってくれたのだ。


一応俺はこの国の第一王子で、見目も麗しいはずだ。女から邪険にされたことはない。

女から振られたことも一度も無かった。

それがこんな地味女に全く相手にされないってどういうことだ!

名目共に学園ナンバーワンの俺を目の前にして、他に素敵な男がいるとは、一体どこのどいつなんだ!


流石に俺はむっとしたのだが、ニーナはその相手は俺ではなくてウィルだとほざいてくれたんだけど。


それって俺だろう!


俺は少しホッとしたが、いやいや、そう言う問題じゃない!


そもそも変装したウィルが素敵で地のままの俺は素敵じゃないのか?


それも目の前の本人に向かってそう言う事は言うなよ!


俺は一瞬どういう反応をして良いか判らなかった。


いやいや、こんな平民の地味な、いや目立ちすぎる女と俺は関係ないはずだ。その女が変装した俺を好きだろうがどうでも良い。俺はその事を無視することにしたのだ。


後はダンスを踊って終わればそれでおしまいだ。もう二度と話すこともないだろう。


そう思って一緒にダンスを踊りだした。


しかし、こいつのダンスは下手だった。

それも俺に踊る時にちょっと抱かれただけで、真っ赤になっているんだけど。


俺から離れようとするから更にうまく踊れなくなるのだ。

普通はダンスの時に、女どもは、俺に密着しようとするから俺は嫌になるんだが、逆に離れようとされると何かもやもやするのは何故だ?


そもそも、俺の前で涎垂らして寝ていたくせに、何故今恥ずかしがる?


俺はムカついたので、できる限りニーナにくっついて踊ってやったのだ。


そして、やっと踊りが終わろうとした時だ。俺は周りを多くの女たちで囲まれているのを知ったのだ。このニーナが俺を踊らせるという余計なことしてくれたから、他の女たちが俺を見る目が獲物を見る猛獣の目でみているのだ。次は絶対に自分が踊るという怖い意識とともに。


俺は悟ったのだ。到底こんなところには居られない。


俺は逃げることにした。


そして、踊り終わると俺は何故かニーナを連れて逃げ出していたのだ。


後でアクセリからは散々、何故一人で逃げなかったのか、と注意された。


いやあ、ニーナをアイツラの中に置いておくのもまた別の意味で心配だろう。


嫉妬に狂った高位貴族の連中に虐められるかもしれないし……


「いや、逆にあの時みたいに令嬢たちに逆ギレして燃やしたかもしれないよな」

アスモがとんでもないことを言ってくれたんだけど。


「まあ、たしかにそれは言えている」

アクセリまで、その可能性に言及し、俺のとっさの行動を認めてくれたのだ。


そんな心配は流石にしなかったのだが。


まあ、彼女の行動は突飛だし、見ていて飽きはしない。


サアリスケ男爵家が修正してきた決算書の不正を一見して見抜いてくれたし。


今度という今度はあの男爵は許さない!



でも、なぜだが、俺は、別れ際にニーナにサマーパーテイーで踊ってやると言ってしまったのだ


理由は判らない。


何故かそう言わされたのだ。


彼女は魅了を使うのか? でも調べた限りはそんな事はなかったはずだ。


俺ははたと困ってしまった。


その件はまだアクセリに白状できていないし当然皆にも言っていない。


と言うか言えるわけはないのだ。


でも一応約束は約束だ。王家の約束は何にもまして優先されるのだ。


俺はその夜はその理由を一人悶々と考えて、あまり良く寝れなかったのだった。

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王子視点でした。

次は明朝です


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