第2話 本物の王子様に注意されたのに、居眠りしていたのでそれが判りませんでした……
「なんでこうなった?」
私は今、この国の最高峰の学園、王立学園の入学式に参加している。
元々私は平民なので、お貴族様の通う王立学園なんて関係ないと思って、送られてきた入学願書なんて、無視していたのだ。
そうしたら、翌日には、なんとこの地のご領主様であるサアリスケ男爵家の執事さんがやってきたのだ。
こんな田舎にご領主様の執事さんが来ることなんて、滅多に無かったので、大家さんから村長さんまで大慌てで飛んできたんだけど……
「私は王立学園に行くなんて畏れ多い事は出来ません」
私は珍しく、常識的な対応をしたのだ。
「左様でございます、マルコ様」
村長が大きく頷いてくれた。
「ニーナのわんぱくぶりはこの村一でして、到底お貴族様のご令嬢方の中で、ちゃんと出来るわけがありません」
「左様でございます。この前も盗賊に襲われたのですが、その者を返り討ちに燃やしてしまいまして、全治1ヶ月の重傷を負わしてしまったのです。もし、お貴族様に手傷を負わせてしまったら、この村、いえ、下手したらご領主様のお家もただでは済まないかと」
大家さんまで飛んでもないことを言ってくれるんだけど……
冒険者崩れの盗賊を燃やしたのは、襲われたから仕方がないじゃない!
ウィル様も燃やしたくんだりは呆れていたけれど、反撃したのは良くやったと言ってくださったのだ。
だって、あのままだったら本当に私の操がヤバかったんだもの。
でも、あのタイミングでウィル様が助けてくれるのならば、あと少しそのままにしていても良かったのかも……そうしたら私のお転婆もウィル様に判らなかったのだ……
わたしは、少し後悔した。
「しかし、今回の件は結構上の方からのお達しでな。我が家としては無下にも出来んのだ。この前のニーナのその活躍も含まれているみたいだ」
苦々しげにマルコさんが言うんだけど。
魔法を使ったのが過剰に報告されたんだろうか?
国境警備隊の騎士長か誰かの報告が学園関係者に目に付いたんだろうか?
ということでそれから半年間。私は執事さんがつけてくれた家庭教師の先生に王立学園に入るための勉強をみっちり仕込まれたのだった。
数学や理科は前世の知識があるので簡単だった。おそらくこのゲームの作者は理系科目は苦手だったのだ。この世界がゲームの世界だったらだけど……
でも、文学や歴史はけっこう大変だった。だって前世の知識が全く通用しないし、今世は平民で、学校なんて無かったし、家に高価な本なんてほとんど無かったのだ。
特に貴族に必要な礼儀作法は前世も含めて全く駄目で壊滅的だったが、まあ、少しは形になった。
私が一番心配したのは学費だったが、稼いでいない平民は基本的に無料だった。
その分、大貴族や金持ちの家は学費が高いそうで、理にかなっていると言えば適っていた。
小遣い等はサアリスケ男爵家から多少は出していただけるそうで、マルコさんには男爵家には感謝するようにと言われていたが、あまり人の世話になるのは嫌なので、丁重にお断りした。お小遣いは周りの農家とか、レストランをお手伝いした分とかで多少はあったのだ。
私は平民なので、ABCの3クラスのうちの当然一番下のCクラスだった。Cクラスの過半は平民だ。ただし大商人の子供や騎士の子供や王宮の文官の子供も多く、純粋な平民はほとんどいなかった。父親の代までが貴族でその子供が平民になったところの貴族崩れの子供などもいた。
残りは男爵家の子供達だった。
運の悪い私は馬車の車軸の故障で大幅に遅れて、昨日夕方には学園に着くはずが、寮に着いたのは夜中になってしまったのだ。
だから昨日はほとんど寝ていなかった。
そして、当然の帰結だが、学園長先生の眠たい祝辞の最中にいきなり舟を漕ぎ出したのだ。学園長の退屈な話は十分に子守唄になったのだ。
私は夢の中で憧れのウィル様と王都を散歩していた。
ウィル様は横から盗み見るととても動きが優雅だ。そして、椅子の前に立つとさっと椅子を引いてくれた。
「ニーナ嬢! ニーナ嬢!」
私はウィル様に揺り動かされたのだ。
「えっ?」
私ははっと目を覚ました。
「ニーナ嬢! やっと起きたか?」
壇上から私を呆れてみているイケメンがいたのだ。誰だろう? めちゃめちゃすごいオーラを周りに撒き散らしている。
「夜更かしも程々にするように」
「はい!」
私は大声で返事してしまったのだ。
皆、周りは爆笑していた。
「本当にお前、将来大物になるよ。生徒会長の前で盛大なイビキかいて寝ているんなんて」
後ろからゆすってくれた男の子が呆れて言った。後で聞いたら彼は騎士希望のヨーナスだった。
「でも、生徒会長はなんであなたの名前知っていたんだろう」
隣の女の子が呆れて言ってくれた。後で聞いたらライラと名乗ってくれた。
「さあ」
私は首を振った。
生徒会長は銀髪の美しい顔立ちだった。どこかで見たことがあるように思えたけれど、まあ勘違いだろう。私に貴族の知り合いがいる訳はないし。ウィル様は茶髪だったからぜんぜん違うし。
「まあ、新入生の諸君も、1日も早く、彼女のように私の前で居眠りできるくらい、この学園に溶け込んでくれたまえ」
生徒会長は私をちらりと見て嫌味で話を終えてくれた。
まあ、生徒会長は高位貴族なんだろうし、私が睨まれようが二度と会うことはないはずだと単純な私は安心しまったのだ。
まさか、生徒会長が第一王子殿下で、将来の国王におなりになる方だったなんて、寝ていた私は全く、知らなかったのだ。
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ここまで読んで頂いてありがとうございます。
寝ていたから生徒会長の身分まで知らなかったニーナ。
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