8:時東はるか 12月2日14時40分 ①

 古い家と評すればそれまでではあるものの、南家はとかく広くできている。

 ひとりで暮らす南は、ほとんど二階は使用していなかったらしい。「そんなわけだから好きに使って」と案内された六畳間の和室を、時東はきょろりと見渡した。

 ちなみに、本人は、あとは任せたと仕事に戻ってしまっている。

 知り合って半年も経たない人間を、よくひとりで家に置くよなぁ、と。ほんの少し呆れる気持ちもあるけれど、あの人らしいと言えば、それまでだ。


 洋タンスと、その隣に立てかけられた折り畳み式の机。南が持ち込んでくれた小型のヒーター。まだひんやりと肌寒いものの、どこか懐かしいいぐさの匂いと、なによりも窓から見える景色が気に入った。

 田んぼと国道、そして南食堂がよく見える。

 ここから眺めていると、南食堂の灯りを頼りにバイクを走らせた夜が随分と昔のように思えた。


 ――変な感じだな、なんか。


 苦笑ひとつで窓辺から離れ、時東は持ち込んだ荷物の開封作業を開始した。必要最低限しか持ってきていないので、片づけもすぐに終わるはずだ。


 ――南さんが戻ってくるまでには、終わらせておかないと。


 怒りはしないだろうが、呆れられてしまいそうな気はするし、初日からそれはちょっといただけない。

 そんな自己保身で片づけを進めること、三十分。最後の段ボール箱からパソコンを取り出した拍子に、ぽんとUSBメモリが飛び出した。畳をするすると滑り、押入れに当たったところで回転が止まる。

 USBメモリを取るために伸ばした指先が、その先にある押入れの引手を掴んだのは、ちょっとした好奇心だった。




[8:時東はるか 12月2日14時40分]



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