脳に巣食うナニカ
ゆる弥
第1話 日常
この日は順調に仕事が終わり、定時で帰ることができた。仕事は上手くいっている。家族とも上手くいっていて幸せな日々が送れていた。
私は妻と三歳の娘と一歳になる息子の四人家族だ。その辺のどこにでも居そうな普通の家族。その家族を支えるのが私の役目なのだ。
IT系の企業に務めるプログラマー。この仕事は配属されたプロジェクトによって忙しさに差が出る。今は別の企業に別の同僚と一緒に出向していた。
ある時、出向先の別プロジェクトに入ることになった。そのプロジェクトは忙しくしており、入った初日から帰りが夜九時になった。
家に帰ると妻は子供と一緒に寝ていた。電気の点る今には誰もおらず何も無い空間を照らしていた。別に起きていて欲しいとかではない。子供も小さい。寝ていた方がいいに決まっている。
香ばしい香りがキッチンからは漂っている。腹の虫が早く飯を食わせろと私にせがんで来る。少し冷めかかっている米を茶碗へと盛り、同じく冷めかかっている生姜焼きとキャベツの千切りを平皿へ盛る。あとは電子レンジという有難い発明品に温めてもらう。
この発明をした人というのは本当に凄いものだなと思ったりする。我々プログラマーも何も無いところからプログラミングして構築していくのだから傍から見たら凄いのかもしれない。
私の中では誇りを持ってやっているし、この仕事は私に向いていると思う。
勉強というものは別に好きではない。でも、このまでの仕事をやってこれたのは自分が独学でプログラム言語を習得していったからだと自負している。
頭がいいわけではないが、要領はいい方だと思うし回転も早い方だと思う。だからこの仕事を自信を持ってしているわけだ。
今日から入ったプロジェクトはかなり空気が重い。いきなりやれと言われても取っかかるまでに仕様を理解しなければいけない。
それに時間がかかるが目標の日までに完成させなければいけない為、残業は必至だった。一体なんで私がそのプロジェクトに入れられたのか。
恐らくは人が足りなくて定時で帰っているような私を見掛けてお声がかかったのだろう。自社にも連絡がいっているのかは知らないが、いい迷惑だ。
そんなことを考えていたら「チンッ」と発明品ができたことを知らせてくれた。
湯気が立ち上り生姜の香りを漂わせている。その皿をテーブルに置くと手を合わせて一口ほお張る。生姜の香りが鼻から抜け、あまじょっぱい風味が口に広がる。
妻に感謝しながら一日の終わりを告げる「プシュ」とした音を響かせながらビールの口をあけて口へと一気に流し込む。
誰もいないことをいいことにゲップを豪快にかまして食事と洒落込む。
夜独特の濃い内容のテレビ番組を見ながら米と生姜焼きを咀嚼する。誰もいない空間にその音が響き渡り、夜のリビングに私という存在感を知らしめている。
食べ終わると洗い物をしようと皿を片づける。今日の妻は食器を洗う時間がなかったようだ。朝の使った皿がまだ居残りしている。他の食器たちもそれぞれが使われたことを主張していて私に洗って欲しいとせがむ。
仕方がないなと思いながら全ての食器を洗う事にした。食器の音を響かせながら洗い終わるともう時計はテッペンを回っていた。
それでも急ぐことはない。この職業をしていると睡眠時間というものは短くなるもので、寝ないで仕事をすることもあるくらいだ。だからこの位の時間、動いているというのはザラにある。
それに、次の日が来てほしくないので夜更かしをしてしまうものだ。仕事が憂鬱で仕方がない。
そんなことを言ってもこの仕事を今辞める訳にはいかないんだ。私の肩には妻と子ども二人の命が乗っているのだから。大黒柱としてしっかりと外で稼がなければいけない。
それも重圧になっているのかもしれないが、最近のストレスは凄いものである。
家にいて子供と遊ぶのも楽しい。でも、ダラダラして過ごしたいと思う気持ちが勝ってしまう。よくないと思う。平日は妻が一人で二人をみてくれていて、私が何かできるような暇もなく。
できることといえば先程のように皿洗いをして台所を綺麗にすることだけだ。
少し酒で頭が鈍くなってきた所で風呂に入る。温め直して入る風呂はアツアツで身体にいいのか悪いのかは定かではない。
ただ、こんな暖かい風呂にこの時間に入ると自然と眠たくなるというもので、風呂で船を漕いでいる。
船を漕いでどこかへ行ってしまえればいいのだが、行く先は夢の中しかなく。目を覚ませば現実が目の前にある。
風呂を上がると少し良いの冷めた頭。また酔いへと誘うようにビールを追加する。こんな事を毎日のようにやっていれば脂肪もついてくる。
一度は痩せたのだが、また最近食べ過ぎ飲みすぎで脂肪が腹へと張り付いて離れない。脂肪のことは彼方へと追いやって酒に飲まれる夜が幸せを感じるんだ。
妻とは朝方に会話する。夜は専らこんな感じで遅いからだ。妻も疲れているのを感じる。子育てとはある種仕事よりも過酷なものなのかもしれないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます