ゴミ・マイ・ロード ~生粋の女たらし、ダンジョンでゴブリンに負けそうになる。でも、人間が相手なら負けません~「最弱? 魔物の相手は苦手だけど、人間相手は慣れてるんで」

コヨコヨ

第1話 風俗通いの青年

 現在の時刻は午前五時。

 さすがに八時間ぶっ通しで楽しんでいたら嬢の体力が限界を迎えてしまった。今日は潔く身を引く。

 青年は汗で濡れたベッドの上で猫族の風俗嬢の隣に横たわり、頭の後ろで腕を組みながら風俗嬢に話し掛ける。

「ミルちゃん、今日も楽しかったよ。ありがとう」


「いえいえ、ハンス様が楽しんでくれたのなら風俗嬢として本望です。にしても、ハンス様、いつも思うんですけど、その首飾り、淡く青色に光っていて凄く綺麗ですね」


 白色の短髪が汗でじんわりと湿った猫族はハンスの首元に掛かっている青色の宝石が付いた首飾りを指さす。


「これは、お爺様から貰った形見なんだ。これだけはどうしても売れなくてさ……」


「ハンス様、稼いだお金を風俗に全部使っちゃったんですか? ほんと、凝りませんね」


「はは……、ミルちゃんにいくらつぎ込んだかわからないよ。今日も……」


「延長料、一時間につき銀貨二枚でーす。ありがとうございまーす」


 猫族の嬢は、メロンほどはあろうかと言う乳をハンスの腕に当てながら抱き着く。


「はは……。三時間で、金貨一枚なのに……。なんで延長料金がそんなに安いの?」


 ハンスは三時間の基本料金貨一枚、五時間の延長料で金貨一枚、計金貨二枚を支払わなければならなかった。


「だってだって、獣族のお店に需要が無いんですもん。獣族のお店に行く人間の男なんてハンス様くらいです。このお店、ハンス様のおかげでなり立っているんですよ。店長が物凄く感謝していました」


「なんで金額が安くてこんなに可愛い子ばかりなのに獣族のお店は人気が無いんだろうね」


 ハンスはメロンほど大きな乳を触る。


「きゃ、もうー。添い寝は優待者のハンス様だから特別に行っているんですよ。お触りは追加料金でーす」


「おっと、危ない危ない。ミルちゃんに追加料金を請求されたら俺の生活が成り立たん」


 ハンスはベッドから出て、布製の下着と上着を着る。その後、ハンガーにかけられている綿製の動きやすい長そでの白シャツと黒いズボン。革製の胸当てを付け、肘当てなどの防具を身に着ける。

 黒色のローブを肩からはおり、靴下と革製のブーツを履く。剣掛けが付けられたベルトを腰にまき、黒色が特徴の質素な剣を左腰に掛ける。


「ハンス様。今日も私のために稼いできてくれるんですかー?」


 猫族の嬢は白く柔らかそうな獣耳を動かし、四つん這いになってベッドの上を移動し、ハンスのもとに寄ってくる。


「お金を稼がないと、風俗で遊べないでしょ。行きたくないけど、仕事を探してくるよ」


「ハンス様、今日も一杯稼いで来てくださいね」


 猫族の風俗嬢であるミルはハンスに屈託のない笑顔を見せた。


「うん。今日もお金を稼いでくるよ」


 ハンスはミルの頭を撫で、ウエストポーチを腰に巻き付け、部屋をあとにする。そのまま受付に向かい、黒い背広を着た男の前に立った。


「ハンス様。今日もありがとうございました」


「いえいえ、とても楽しい夜でしたよ。新しく入った子も凄くよく育ちましたね。俺好みです」


「いやはや。ハンス様の好みに合わせて見繕ったので、恐縮です」


 黒い背広を着た男は頭を何度も下げ、ハンスに感謝していた。


「最近、獣族の男も来ないんですか?」


「来る時は来るんですが……、遡行が悪いので、いつも追い払う羽目に……」


「なるほど。店長も大変ですね。お店が無くなったら、嬢の皆も、困りますよね」


「そりゃあ、良い売り場所が見つからなければ、行く当てもなく、冬が来て凍死するか、病気を貰ってのたれ死ぬのを待つしかありません。昼間は皆、別の仕事をしてくれていますし、そうしないとやっていけないのが現状ですね」


「じゃあ、俺もお金をもっとたくさん落とさないと駄目ですね!」


 ハンスは金貨二枚をカウンターに置かれている黒い板の上に乗せた。


「確かに受け取りました。またのご来店をお待ちしております」


 店長は頭を深く下げる。


「ハンス様、また来てねー」


 ミルは下着を付けた後、扉から出てきた。そのまま、手を振り、見送ってくれる。


「また来るよー!」


 ハンスは風俗店『獣好き屋』を出て、春風が吹く寒い朝の街を歩いていた。


「どうする……。もう、普通の宿に泊まるお金すらないぞ……。さっきの金貨二枚が俺の全財産だったのに。とほほ……」


 ハンスは焦っていた。


 遊ぶ金どころか、生活する金すら無い。


 闇金で金を借りるわけにもいかず、成人の一五歳になって家を出て、早三年。大陸を歩いてやって来たシラウスの街で小さな仕事をして日銭を稼ぐ日々。


 一八歳になり、入ることができるようになった大好きな獣族の風俗にハマってしまった。毎日毎日行っていたら、祖父が残してくれた金貨は全て無くなった。


 ハンスは木造やレンガ造りのお店が並ぶ風俗街の中で良く晴れた空を見上げる。


「食べ物代、宿泊代は一日最低でも銀貨三枚は必要だ。八時間遊んで金貨二枚溶かすって……、なんてやばい遊びにハマってしまったんだろうか。まー、仕方ないよな。獣族、可愛すぎるんだもん。にしても生活費が一日銀貨三枚は高いと思うのに、延長料金が銀貨二枚なのは安いって思っちゃうのはなんでなんだろうな」


 ハンスは吹っ切れた。いつもは土木工事や配達、引っ越し、人助けなどをして日銭を稼いでいたが、目を付けていた場所に向かう。

 すると、ハンスよりも良い服を着ている男たちが、歩きながら話していた。


「なあなあ、最近現れたシラウスの迷宮(ダンジョン)にもう行ったか?」


「行った行った。初級の魔物ばかりで張り合いが無かったぜ」


「ほんとだよな。ゴブリンやスライムを倒しても得られる収入は少ないし、俺達中級者が行くようなダンジョンじゃねえよ。あそこは初心者用だぜ」


 最近、シラウス街からすぐ近くにあった炭鉱に迷宮が出現した。多くの冒険者がこぞって調べに行ったが、初級ダンジョンだったらしく新人冒険者や小銭を稼ぎに行く俺みたいな人間しか訪れなくなった。


「中級者にとっては用無しのダンジョン。でも、初心者の俺にとっては朗報なんだよな。よーし、金貨二枚を目指して魔物を狩るぞっ! まあ、今まで魔物とまともに戦ったことないけど」


 ハンスは意気揚々と歩き、シラウス街から三キロメートル離れた炭鉱にやってきた。

 すると、ハンスと同じような恰好をした者達が集まり、整備されたダンジョンの入り口に入っていく。

 いったい何人が一攫千金を狙って冒険者になったのか、はたまた日銭を稼ぐために冒険者紛いのことをしているのか……。


「まあ、俺は冒険者紛いなことをしているんだよな」


 多くの者が二人、三人と言うパーティーを組んでダンジョンに挑んでいる。だが、ハンスに友達みたいな相手はいない。


 ハンスはダンジョンに入り、大きく開いた通路を歩いていく。明りとして壁の上部に魔石が埋め込まれていた。そのためダンジョン内でも視界ははっきりと見えている。


「さてさて、初心者用の魔物って言うのはどういう奴らかなー」


 ハンスは遠足気分でダンジョンに潜っていた。


 迷路のようになっているダンジョン内に質素な剣一本で入り、魔物を倒しに向かう。だが……一時間後。

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