雪山の魔物

十三岡繁

雪山の魔物(前編)

 雪山には魔物が棲んでいる。


 天気予報は外れた。遭難した二人は吹雪の中雪洞でビバークをする事にした。


「おい、寝るな!死ぬぞ!気温の下がる夜はやり過ごして、日が出てから眠れ」


 寒さの中うつらうつらとする俺の肩を相棒が揺さぶった。こいつとは大学以来の腐れ縁だ。バディを組んで幾つもの山を登ってきた。


「救難信号は出してるんだ。明日には捜索隊が来てくれる」


「いや、俺はもう無理だ。眠らせてくれ」


「馬鹿野郎!真理ちゃんはどうするんだ。妊娠してるんだろう!」


 真理とは俺の嫁の名だ。こいつがしてくれた結婚式の下手糞なスピーチを思い出した。


「よし、俺がお前に目の覚めるような話をしてやる」


「お前、話下手だろう。逆に眠くなりそうだ」そう言って俺は笑みを浮かべたつもりだったが、寒さで口もうまく回らない。もう目を開いているのも難しい。


「大学二年の頃、真理ちゃん好きな奴がいるって、最初の告白でお前振られただろう?」


「ああ、そんなこともあったな」


「あの時真理ちゃん俺と付き合ってたんだよ」


「えっ!全然知らなかった。お前と別れたから俺と付き合ってくれたのか?」少しだけ目が覚めた。


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