第6話 冒険者登録
「あーーーー、……俺、またなんかやっちゃいました……?」
『はぁ……バカ……』
てか、けが人がいなくてほんとよかった。
一日に壁を壊したり天井を壊したりでギルドにとっては災難だったが……。
モカにドン引きされてないかな……?
ちらりと横を見ると、モカはドン引きどころか俺へ羨望のまなざしを向けていた。なんで……!?
フィエルさんもようやく正気を取り戻したようで。
「あの……トウヤさん、非常に申し上げにくいのですが……うちの水晶玉では測定不能みたいです……」
「あぁ……ですよねぇ……てか天井壊してすみません」
「いえ、それはいいのですが……。まあ、一瞬ですがレベル9999というのは見えたので、一応Aランクにはできるとは思いますが」
「ありがとうございます」
そんなやり取りをして、フィエルさんがギルドカードを発行しようとしていたときだった。
天井破壊の騒ぎをききつけてやってきたのか、なにやら頑固そうな顔つきの男がこちらへ歩いてくる。
男はギルドの職員らしく、フィエルさんが怯えた感じの挨拶をする。
銀髪にメガネ姿の威圧的なその男は、俺に向かってこう言った。
「ギルドの天井を破壊した男というのは貴様か?」
「あー、そうです。その点についてはほんと、すみません。弁償します」
「ふん、当然だ。それで、フィエルくん。君はなにを書いているのだね」
男は強引にフィエルの書いている俺のギルドカードを取り上げた。
見下したような目つきでフィエルを見るそいつに、なんだか少し腹が立ってきた。
「あ、あの……トウヤさんのギルドカードを……」
「ふん、なにがAランクだ。こんな男、Fランクで十分」
「で、でも……トウヤさんはレベル9999で……」
「それは君の見間違いではないのか? それかこの男のペテンにかけられているのだ。でないと、そんな数値はそもそもありえないだろう」
っく……まあ確かに、信じろってのが無理な話ではある。
だけど、フィエルさんへの態度はどうにも我慢できないものがある。
「ということで……トウヤとか言ったか? 貴様のランクはFランクだ。残念だったなぁ。Fランクのクエストなんかじゃ、百年経ってもギルドの修繕費は払えまい。一生ただ働きかもなぁ。ペテン師くん」
「っく……修繕費くらい、一瞬で払ってみせますよ」
男はギルドカードのランクをFランクに書き換えると、それを俺に投げるように渡してきた。
そして不愛想な態度のまま、どこかに消えていった。
やつが去ったあと、フィエルさんが心底申し訳なさそうに俺に頭を下げてくれた。
「申し訳ありませんトウヤさん。私じゃカマセーヌさんに何も言えなくて……」
「いえ、いいんですよ。気にしてません」
「でも、トウヤさんならきっとすぐにAランクになれますよ!」
「ええ、そのつもりです。修繕費もすぐにでも払ってみせますよ」
正直、俺が一気にランクアップしたときのアイツの顔がはやく見てやりたいくらいだ。
修繕費だって倍にして返してやるさ。
フィエルさんに申し訳ないし、彼女のためにもあの男をぎゃふんと言わせてやりたい。
「カマセーヌさん、いつもああなんです。正直困った上司で……。イケメンで若い冒険者には必ずといっていいほど嫌がらせをするんです。それに、トウヤさん、可愛い彼女さんも連れてらっしゃるから……」
「は……? 俺がイケメン?」
「そうですよ? 超イケメンじゃないですか! ねえ? 彼女さん!」
待て待て、俺がイケメンなわけなかろうが。
彼女さん扱いされたモカが、それに応える。
「わ、私は彼女じゃないですよ! トウヤさんほどのイケメンさんには、とてもとても……釣り合わないです!」
「はぁ……?」
どうやら、俺はこっちの世界ではイケメン扱いらしい。それも、異常なまでの持ち上げよう。
あ、そっか……。転生するときにちょっと顔をいじったんだった。
それにしても、ここまで反応が違うものか……?
元々の自分の顔からそこまでいじったつもりはないから、なんだか不思議だ。
まあ、元の自分の顔も嫌いではない。それが承認されたようで、なんだかうれしい。
「いや、でもそれを言うならモカやフィエルさんのほうが美人じゃないですか」
俺が素直にそう言うと。
「「ひゃ、ひゃい……!?!??!」」
二人して顔を真っ赤にして照れた。あ、可愛い……。
『まったく、私のときとは大違いだな……』
『当たり前だクソ女神』
久しぶりに女神にツッコミを入れつつ。
ちなみにさっきまで脳内で女神がうるさかったけどずっと無視してた。
可愛いと言ったきり、二人は固まってしまったので――。
「あー、じゃあとりあえず……俺はクエストでも受けようかな」
クエストカウンターに置いてあるFランクのクエスト一覧に目を通す。
そしてその中から、薬草採取のクエストを選んでもぎ取る。
どうやらFランクではそこまで報酬のいいクエストを受けられない。
さっきのカマセーヌとかいう男が言ってたのはこういうことか……。
こりゃあFランクのクエストなんかじゃいくらこなしても修繕費にはならないな。
まあ俺にはチート能力があるから金を稼ごうと思えばいくらでも可能だろうが……。
それだとなんだかカマセーヌに負けた気がするし、あくまでここのクエストで稼いで返したい。
どのみち冒険者ランクは早めに上げておきたいから、まずはこのクエストだ。
「えーっとじゃあこのクエストをお願いします」
フィエルさんにクエストシートとギルドカードを差し出す。
ようやくフィエルさんは我に返ったようで、それを受け取った。
「あ……は、はい……!」
「でも薬草採りかー、だいたい何回くらいで次のランクのクエストが受けられますかね?」
「うーん、大体みなさん50回くらいはかかりますかねぇ。それもカマセーヌさん次第ではありますが……」
「そっかぁ。薬草だけで修繕費となると……難しいですね」
「あ、でも! ただの薬草じゃなくて『神秘草』とかが採れれば一攫千金で億万長者ですよ!」
「おお! それっていくらくらいになるんですか!?」
「うーん、それが……前に『神秘草』が見つかったのは500年も前のことなので、わからないんですよねぇ」
「じゃあダメじゃん……」
そんなレアなアイテム、手に入るわけがない。
「あ、でもでも! 他にも高く売れる薬草の上位品とかもあるので! とにかく目についたアイテムは片っ端から採ってきてもらえれば!」
「まあ、そうですね。俺もまだよくわからないので、とりあえず手当たり次第に採ってきますよ」
「じゃあ、クエストシートにサインを……」
すると、横からモカが待ったをかけた。
「あの……! わ、私も……そのクエストに同行してもいいですか!?」
「うん、もちろんいいけど……」
「私もトウヤさんが修繕費を稼ぐお手伝いがしたいんです! 元はといえば、壁が壊れたのは私のせいでもあるので……」
「いや、まあモカのせいではないけど。とにかくよろしくな!」
「はい! ありがとうございます!」
本当にいい子だな。俺としても、せっかく知り合えたのだから、このままお別れは嫌だったし。
モカと一緒にクエストに行けることになって、正直めちゃうれしい。
「では、クエストはお二人でということで」
フィエルさんがクエストシートの人数欄を一人から二人に書き換える。
「ちょっと嫉妬しちゃいます」
「いやいや……フィエルさん俺を持ち上げすぎですって……」
イケメン扱いなんてされたことないから、反応に困るんだよなぁ。
とにかく、俺とモカで薬草採取のクエストに出かけることとなった。
まあFランクの採取クエストだし、危険なことにはならないだろう。
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