旦那デスノート
月ノみんと@世界樹1巻発売中
第1話
私の名前は椎名りく。
そして、私の幼馴染の男の子の名前は山村りくとだった。
りくとりくと、名前が似ているということで、私たちはとっても仲のいい幼馴染として、ともに育った。
私はりくとのことが大好きだった。
小学校に入ると、よくまわりから「二人が結婚したら、二人とも山村りく、と山村りくとだな。同じ名前じゃん。おっかしい」とからかわれたものだ。
ずっと一緒にいたので「やーい、お前ら夫婦かよ」とからかわれた。
私はりくとのことが好きだったので、特に気にはならなかった。
それどころか、私は二人の将来を想像して、少しうれしくなったほどだった。
もし二人が結婚したら、おんなじ名前になっちゃうね、と自分で、りくとに言ってみたことがあった。
するとりくとは、顔をあからめて恥ずかしそうに「ばかやろー」と言っていた。
りくとは年頃の男の子だったから、私といてからかわれるのがはずかしくなったみたいで、だんだんと私から距離を置くようになった。
高学年になるころには、ほとんど話すこともなくなっていた。
だけど私はやっぱり気になって、りくとのことを目で追っていた。
そして私たちは別々の中学校に進学した。
そこからはずっと会っていなかった。
だけど、高校生になってから、予備校で再会した。
偶然にも、ふたりの志望校は同じだった。
高校生になっていたりくとは、少し大人になっていた。
私たちはすぐに再び意気投合した。
いつのまにか、私たちは恋人同士になった。
そして同じ大学に進学して、卒業してすぐに結婚した。
私たちは、山村りく、と山村りくとになった。
ふたりはラブラブだった。
だけど、幸せな日々はそう長くは続かなかった。
りくとは結婚するまえは、とてもいい彼氏だったんだけど、結婚してから変わってしまった。
私に文句は言うし、家事は手伝ってくれない、子育てだってまかせっきり。
お酒ばかり飲んでいるし、お金もすぐにタバコやギャンブル、趣味のプラモデルに消えてしまう。
しかも不倫しているような気配すらある。
私が文句をいうと、ヒステリー女だとかっていって、馬鹿にする。
だいたい、りくとは私のことをなにもしらないバカ女だと思っているのだ。
私だって、同じ大学を卒業したというのに。
私はだんだん彼が嫌になってきた。
あれほど好きだったりくとのことを、いつのまにか憎んでしまっていた。
子供が成長して家を出ていくと、いよいよつらくなった。
もう好きでもないりくとと、いっしょに暮らすのが、耐えられない。
愛情がなくなってしまえば、そこにいるのはただの太った中年男性だ。
私はりくとが家にいないときだけが安らぎだった。
はやく死んでくれないかな、そう思うようになった。
そんなとき、SNSで旦那デスノートというタグをみつけた。
そこには私のような思いをしている人がたくさんいた。
みんな、SNSで旦那の不満を共有している。
私もすぐにそれに夢中になった。
SNSに、何度も旦那死ねと書いた。
いずれそれが現実となるように、私は体に悪そうな食事ばかりを作った。
まあ、酒もたばこもものすごい頻度で消費するし、りくとはそう長生きはしないだろうと思っていた。
だけど、そろそろこんな生活にも限界だ。
SNSのおかげで、なんとか自我を保っていたけれど……。
そんなある日のことだ。
私の目の前に、一冊のノートが落ちてきたのだ。
それには、旦那デスノートと書かれていた。
中を開けてみると、そこにはいろんな人の名前が書かれていた。
いったいどういう名前が書かれているのだろう。
でもデスノートって書いてあるくらいだから、殺したい人間の名前なんだろうな。
旦那デスノートってことは、これはみんな旦那に不満をもっている妻たちが書いたのかな。
ここに名前を書かれた人は死んだんだろうか。
はは、まさかね。
デスノートなんて、実際にあるわけないじゃない。
だけど、まあ、いちおう、まさかね……。
でも、私は旦那の名前を、そのノートに書かずにはいられない。
あんなやつ、早く死んでしまえ。
そういう思いで、私はノートに旦那の名前を書いた。
「山村りく――」
そこまで書くと、私はとたんに苦しくなって、その場に倒れた。
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