敬語妹はダメ兄製造機 ~見てしまったんですね、兄さん~

処雪

第1話:まったく、世話の焼ける兄さんです

「兄さん、いい加減にしてください。まったく、いつまで経っても子どもなんですから」


「でも――」


「でももだってもありません。何回言わせれば気が済むんですか。脱いだ制服はハンガーにかける。一回でも使ったマスクはゴミ箱に捨てる」


「今日は寝不足だったんだ。もう、動けない」


「兄さんのことですから、大方いかがわしいゲームでもやっていたのでしょう。はぁ……本当、世話の焼ける兄さんです。仕方ないので、今日も私に任せてください。本当、仕方ないですね、兄さんは」


 妹は小言を言いながら、リビングを片付け始めた。


 その割には、どこか柔らかい表情だ。


 床に転がっているマスクをさっと拾うと、ポリ袋に入れる。


 持ち手を縛ると、空気を抜いてポケットにしまった。


「それ、どうするの?」


「捨てます。そのままゴミ箱に入れないのは、掃除で菌が舞うからです」


「ふぅん……」


 そこまでは聞いてないんだけど。


 まるであらかじめ用意していたような回答と、冷静な挙動。


 なるほど。


 捨てるゴミにしては、やけに扱いが丁寧だったのも、きっと妹なりの考えがあってのことだろう。


「洗い物はこれで全部ですか? 使ったハンカチやタオル。他にも汚れてるものは洗濯カゴに入れておいてくださいね」


「はーい。もう入れました~」


「兄さんワイシャツは? どこにも落ちてませんでしたよ」


「あー、たぶん部屋だわ……」


「部屋、入りますね」


「え、さすがにそれは」


「むぅ~っ。その顔、また勝手に何か買いましたね。兄さん、今月のお小遣い抜きです。代わりに私のお小遣いを全額兄さんにあげます」


「おかしくない? 自分で言うのもなんだけど、元はといえばお金勝手に使った俺が悪いんだよね」


「いいんです。兄さんはそのままで。むしろ、兄さんにちゃんとした金銭感覚が備わったら、私は存在価値を失ってしまいます」


「そんなことないけど……。お小遣いはなんか悪いから半分だけでいいよ」


「そう、ですか……。分かりました。それでは少ないですが、兄さん名義の口座に入れておきますね――あ、兄さん、お風呂が湧きました。先に入っちゃってください。私はワイシャツ取ってきますね」


 思えば妹は、基本しっかりしているけど、たまに変なところがあった。


 それも含めて妹だと思っていたし、それ以上に、妹からは多くのモノをもらっていたから、気にも留めていなかった。


 すでに、引き返せない所まで来ていた。


 妹に頼りっ切りのダメ兄にとってはあまりに日常だった。

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