第48話……ラゲタ攻防戦【前編】

 統一歴565年4月――。

 オルコック率いる王国正面軍は、港湾都市ラゲタを包囲した。

 ただ一角、海側の一部は包囲を免れたのだが……。


「掛かれ!」


 女王の親衛隊長オルコックは指揮下の全軍に攻撃に出る様命じた。

 我がリルバーン家は、海側に近い最左翼を担当していた。


 リルバーン家の軍隊は、竜騎士100名、騎兵300名、弓兵600名、歩兵2000名の計3000名である。

 さらに非戦闘員として輜重隊を、別途250名雇っていた。

 城攻めの時は、騎兵なども馬を降りて戦うが、どちらかと言うと野戦向きの軍隊編成であった、


「弓隊、放て!」


 各部隊を掩護するために矢が放たれる。

 今回も攻城塔、破城槌などが投入されたが、城壁の手前などに配置された濠や阻塞などに阻まれ、効果的に使用できるのは投石器だけという状態であった。


「反撃せよ!」


 城壁の上に備え付けられたバリスタが、大きな矢や石弾を放ち、次々に王国軍の攻城兵器を破壊していった。


「怯むな! 突撃せよ!」


 王国軍の兵士たちは、弓隊の援護の下、城壁に梯子を掛けてよじ登るが、上から石や熱湯を掛けられ、攻勢は全域で失敗に終わっていたのであった。



「むむむ、一旦退け、体制をたてなおす!」


「はっ」


 総司令官オルコックの陣所から、伝令が各地にとび、攻勢は一旦中止となったのであった。




◇◇◇◇◇


 その晩――。

 王国軍本営幕舎内。

 蝋燭が沢山掲げられ、将校たちの顔を明るく照らす。


「どうしたものか? このままでは落ちぬぞ!」


 総指揮官のオルコックは声を荒げた。

 攻城兵器が多く壊されたのもあって、諸将も黙り込んでいた。


「どうでしょう? この手などは?……」


 おもむろに口を開いたのはパン伯爵。

 彼の提案した作戦は、通称モグラ攻め。


 トンネルを掘って、敵の城壁の裏側にまで潜り込む作戦だった。

 だが、これには難点があった。

 時間がかかり過ぎるのである……。


「私も賛成です。無理押しは被害が多すぎます!」


 私もパン伯爵に賛同。

 モグラ攻めに同意した。


「しかし、このままではクロック侯爵に全部の手柄を取られてしまうぞ!」


 ここで反対してきたのは、いままで非戦派閥であった地方領主たち。

 先の防衛陣地攻略で、士気が上がっていたのであった。


「よし、左翼のリルバーン将軍とパン伯爵はモグラ攻め。中央と右翼は通常攻撃とする!」


「はっ」


 軍議は決し、その後、細かい部分が詰められた。

 結果、攻城兵器は右翼に集められ、基本的に他戦線は援護に回るという方針となったのだった。




◇◇◇◇◇


 翌朝――。

 攻勢は再開。

 だが、左翼のリルバーン陣地は他と異なる。


「土を盛って防塞を築け!」


「はっ」


 私は兵たちに、穴を掘る者たちが攻撃されないよう、簡易の陣地を作ることを命じた。


「ポコ~♪」

「ガウウウ……」


 土木部隊でもひときわ目立つ甲冑を着た大男がいた。

 彼は大量の土砂をいとも簡単に運ぶ。


 実は甲冑の中身は、ポコの義理の息子のミスリルゴーレムだ。

 魔物だとバレないように大きな甲冑を着せているが、これ以上大きくなったらどうしようという不安がある。

 それはともかく、彼のお陰で土木工事は恐ろしく捗った。



「次は穴掘りだ! 城側を恐れさせよ!」


「はっ!」


 防塁を築いた後はトンネル掘削。

 ここでもミスリルゴーレムは大奮闘。

 勢いよくトンネルは掘られていく。


 この状況。

 城側も薄々感づいており、不気味な気持ちにさせられていく。


 だが、こちらの右翼が大攻勢をかけていることもあり、こちらの戦線からは防衛兵が引き抜かれているようであった。




◇◇◇◇◇


 掘削開始から5日後――。

 リルバーン伯爵本営。


「将軍、城壁の下にも多数の石片が埋まっている模様!」


「なんだと!」


 伝令からの報告によると、城壁の下を掘り進むも、城壁の下にも瓦礫が埋め込まれており、掘削工事が難航するとのことだった。

 流石は古の大都市、きめ細やかな防御が施さている。


「工事している者たちに伝えよ、ゆっくりやれと!」


「はっ!」


 右翼が猛攻撃しているのに、手抜きをしているようで申し訳ないが、モグラ攻めは心理的効果が大きいのだ。

 私は不謹慎にも、幕舎の中でゴロゴロしていた。


 これ以上手柄を立てても、上の位は侯爵。

 幾らなんでも、宮廷貴族たちが傭兵上がりの私を、侯爵にまで取り立てるとは思わなかったのである。


 私は夜もスタロンなどと酒を酌み交わし、のんびりと情勢を眺めていたのだった。




◇◇◇◇◇


 それから二日後――。

 空からは雨粒が落ちて来る。


「パン伯爵から伝令でございます!」


「なんだ!?」



 伝令が持ってきた羊皮紙を読むと、城壁の裏側には水堀が掘られており、掘り進むのは危険とのことだった。

 トンネルへ水が流入し、伯爵の兵士に溺死したものが多数とのことだった。


「坑道を掘るのを急ぎ中止せよ!」


「はっ!」


 この命令がギリギリ遅く、リルバーン家の掘っていたトンネルにも水が入ってきた。

 知らせのお陰でおぼれ死んだ者はいなかったが、掘ったトンネルは水浸しで使い物にならなくなったのであった。



「総司令官から、諸将にご参集の御下知にございます!」


「わかった、参ると伝えてくれ」


「はっ」


 モグラ攻め作戦は完全に失敗だ。

 私は責任を問われる立場になったのであった。

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