第45話……出兵構想と戦車

「急ぎ仕上げよ!」


「はっ!」


 レーベ城は第二期の工事に入っていた。

 第二期の工事は街の外郭を囲む工事で、かなりの大工事となっていた。


 その工事の外側では、ナタラージャが竜騎士隊の訓練を行っていた。

 ドラゴネットの飼料には、動物性の餌を入れねばならず高コスト。


 また雑食故、鶏や羊などの家畜を襲うこともあった。

 それゆえ、王国では野蛮な動物と忌み嫌われており、軍に使用するのも、原産地のケードなど少数派であったのだ。


「ポコ~♪」


「ガウガウ!」


 ポコリナもミスリルゴーレムと城郭工事を手伝う。

 ミスリルゴーレムは大人の身長を追い越し、すでに2mを超える巨体となっていたのであった。




◇◇◇◇◇


 統一歴565年1月――。

 私はイオと年始の挨拶に王都シャンプールを訪れる。


 王都は相変わらずの繁栄で羨ましい限りだ。

 我が領レーベも、もっと繫栄させねばと心を新たにする。


「よう来たな、シンカー」


 貴賓室で寛いでいると、女王シャーロット陛下がお忍びでやってきた。

 慌てる私とイオをしり目に、陛下は奥のソファーに座った。


「いまの余は、シンカーの友人としてきたのだ。いらぬ遠慮はするな」


「はっ」


「余はのう、王配を迎えてはどうかと、宰相たちにいわれてのう……」


「それはようございますな」


 イオが温かいお茶を持ってくる。


「……での、希望はあるかと宰相に聞かれたので、シンカーが良いと答えたのじゃ」


「ぶはっ!」


 私は口に含んだお茶を噴きだしてしまう。


「そうしたら、宰相に怒られてしまったわ」


 ……でしょうな。

 というか、私は貴族たちにただでさえ好かれていない。

 あまりややこしくしないで欲しいものだ。



「それはそうでしょう。陛下の位と外交を考えれば、商国や共和国からお迎えするのが筋かと……」


「それは嫌じゃのう」


「お会いしてみたら、案外良いお方かもしれませんぞ!」


「……そ、そうかのぉ?」


 等と、たわいもない会話をして陛下はかえっていったのだった。


 その後の元旦の宴は美味な食事が目白押し。

 十二分に堪能し、その日はゆっくりと休んだのであった。




◇◇◇◇◇


 元旦の宴の翌日。

 王宮作戦室。

 女王陛下を上座に、貴族たちが集まっていた。


「兵も休めたので、雪解けを待ってガーランド商国に出兵したいと考えておる」


 クロック大元帥が発言。

 この王族でもあるクロック派閥は王国で最も多数派。

 特に、若手の下級貴族の人気が凄く、今や女王さえも凌ぐ権威があると噂されていた。



「それより領民を労わってくだされ、内乱が収まって一年しかたっておりませぬ」


 宰相のフィッシャーは商国出兵に反対するが、少数派であることは否めなかった。


「商国は我が国との境に軍事拠点を築いておる。早急に破壊せねば! 時間が無いのだぞ!」


「そうじゃそうじゃ、しかも商国の北部は内乱状態で、主力部隊が討伐に向かっておる。今をおいてほかに無し!」


「国境沿いの村々は焼かれているというぞ、いまより出陣の機会はあるまいて!」


 宰相の意見に、若手貴族を中心に反対意見が続出。

 どの情報が正しいのかわからないものまで飛び交い、一時会議は紛糾した



「あい分かった! 出兵としよう!」


 結局は、議長である女王陛下の判断で混乱は免れ、会議は出兵という結論になった。


 その後に賦役負担の話し合いが行われ、臨時の課税なども決議されたのだった。

 また作戦の秘匿の為、動員は4月から行うよう通達された。




◇◇◇◇◇


 統一歴565年2月――。

 動員令は秘密にされ、王国領内は静かに平和な時間を送っていた。


 リルバーン伯爵家レーベ城執務室。


「鉄を加工できる職人をあつめよう」


「ほう、何ゆえですか?」


 私の想いつきに、スタロンが不思議に思ったらしい。

 鉄を加工できる職人は貴重であり、まとまった数を呼び寄せるにはかなりの予算が必要だったのだ。


「実はこれがつくりたいのだ」


 私は家宰で金庫番のアーデルハイトにも見えるように羊皮紙を広げた。

 そこには、私が昨日徹夜で創案した、装甲を施された馬車が描かれていた。


「これはなんですか?」


 鉄を纏った馬車の姿に、アーデルハイトは目を丸くする。


「戦闘用馬車、短縮して戦車だ! これに弩兵や槍兵を乗せて戦場を駆け巡るのだ!」


 私は自慢げにそう告げる。


「確かに馬車の上ならば、弩兵の矢が切れることもありませんしな」


 スタロンには好印象であるが、アーデルハイトは渋い顔をした。

 やはり製造コストが高いと映ったのだろう。


「戦場以外なら、物資も輸送できるし、けが人も運べる。一石二鳥だ!」


「将軍がそこまでおっしゃるなら止めは致しませんが……」


 私が自信満々に説明するので、アーデルハイトはお好きにしてください、といった態度となった。



「よし! 早速取り掛かるぞ!」


「了解です!」


 結局、この戦車の試作車両計画は、私とスタロンの趣味のような形で進行していったのであった。


 このような動向。

 我が領にもとどまらず、あちこちの貴族領で戦時用用品が生産された。


 なかには攻城塔や破城槌などが造られ、王国がどこかに戦争を仕掛けるというのはバレバレといった状態になったのであった。



「将軍が遊んでいる間に道を作りますぞ!」


「はい!」


 そのような時期。

 アーデルハイトとキムは、協力してレーベとエウロパ間の道路網を強化。

 領内輸送力の強化に努めたのであった。

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