第28話……城の着工、船の建造!

統一歴564年3月――


 我が領や近隣の耕作地でのイシュタール小麦は二期作である。

 だが冬場の二期目の収穫は少なく、その穂の実りは貧しかった。

 今の様に寒冷化が進む前は、冬小麦の実りも多く、そのため大きな戦の頻度も少なかったと言われる。


「殿!」


 自分の執務室でノンビリしていると、ナタラージャが部屋を訪ねてきた。


「どうしたの?」


「はっ、我がリルバーン家は、外に対しての守りが弱すぎると思うのです」


 彼女は羊皮紙の地図を広げ、指で指し示しながら、熱心に戦術的な防御策を説明してくれた。



「……ふむう」


「我が領には城どころか、砦もないのです。以前ならともかく、北にフレッチャー共和国と隣接した以上。防御施設が無いのは致命的な弱点です」


「……では、築城すべきだと?」


「はい、冬小麦の収穫が終わった今。農民たちは手空きです。着工するにはいい時期かと……」


「わかった」


 私はスタロン達にも意見を聞いた後。

 とりあえず本拠のレーベ後に築城をする方針に決まった。

 本拠地のレーベにあるのは館であり、城ではなかったからだ。




◇◇◇◇◇


「こんなもので如何でしょう?」


 城造りに携わる領民たちに支払う労賃を、財務担当のキムが計算。

 とりあえず、3か月分の労賃の王家謹製の銀貨を用意。

 皆で手分けして、一人分を小袋に分けていった。


「いくぞー!」


「おう!」


 城の設計図はナタラージャが事前に作っていたらしく、それにアーデルハイトとスタロンの意見を加味したものを、実用案として決定。

 すぐさま現地で測量。

 基礎造りの杭打ちなどが始まった。



「殿!」


 またもや献策してきたのはナタラージャ。

 次は何かと聞いてみると、


「我が伯爵家として船を作ってみては如何でしょうか?」


「……ふ、船かぁ」


 欲しいことは確かに欲しい。

 だが、以前に試算した際、莫大な費用の前にとん挫した経験があったのだ。


「今や北部の金山産出量が増大しておりまする。今現在、月産は標準金貨換算で五千枚を超えておりまする」


 財務担当のキムが胸を張って進言。

 アリアス老人の知識による新型溶鉱炉のお陰で、金とミスリルの分離が上手くいっているようだった。



「領内の冬小麦は豊作との見方が有力です。一隻くらい作ってみては如何でしょう?」


 最後は家宰のアーデルハイトの意見が決め手だった。


「……よし、ウィリアムに発注だ! 立派な軍船を作ってもらおう!」


「はっ」


 商船なら借りれば良い。

 だが、有事に軍船を貸してくれる貴族は、なかなかいなかったのだ。


 領主として、自領の造船技術も維持せねばならない。

 結構、領主って考えることが多いなぁ、と今更ながらにおもったのだった。




◇◇◇◇◇


「殿! これに出てはみませんかな?」


「……ん?」


 珍しくスタロンの提案だ。

 何の施策かと羊皮紙を見たら、王都シャンプールの闘技場での試合の開催だった。

 どうやら競技場の新設に伴い、試合の優勝賞金が弾んでくれるようだ。


「殿は最近、事務仕事ばかりでなまっているご様子。練習なら付き合いますぞ!」


「おう!」


 楽しそうに提案してきたスタロンと、久々に練習と称して剣をまじえた。

 この時間はとても楽しく、仕事をサボって夕飯の時間まで興じたのであった。




◇◇◇◇◇


「準備は良いですか?」


「ぽこ~♪」

「お弁当は万全です!」


 王都までの久しぶりのお出かけに、イオもポコリナも機嫌がいい。

 私達は馬車を二台仕立て、王都シャンプールへと向かったのだった。



「どうぞお入りください!」


 シャンプールの街の外周の城門の衛士には、ついに顔を覚えてもらったようだ。

 これでも一応、伯爵様なのだ。


「宿屋はいつものところで!」


 御者にラガーの宿に向かうように告げる。

 馬車は人込みに沸く繁華街を抜け、脇道へと入った。



「いらっしゃいませ!」


「お邪魔します!」


 馬車を裏につけ、私たちは宿屋に入る。

 宿の一階は、食堂兼飲み屋であり、多くの労働者が飲酒を楽しんでいた。


「伯爵様、いらっしゃいませ!」


 ウエイターがそう言うと、周りの客が不機嫌な顔をした。

 こういう宿は庶民の憩いの場所なのだ。

 支配者層が来る場所ではなかったのだ。


「悪いが、皆にこれで……」


「畏まりました」


 私は金貨を3枚ウエイターに渡す。

 そして、店から全ての客に葡萄酒が振舞われた。


「このお酒は、リルバーン伯爵様からです!」


「「おお! 乾杯!」」


 振舞われたお酒にお客様たちはご機嫌。

 一気に好意的なムードが漂った。



「……で、今日のお勧めは何かな?」


「これになります」


 ウエイターが木で出来たメニューを渡してくれ、今日のおすすめを教えてくれた。

 二期目の収穫期といった時期で、選べるメニューは沢山あったのだ。


「じゃあ、鴨のグリルと鹿の香草焼き。あと子羊肉入りのリゾットをくれ!」


「畏まりました!」


 その後、焼けたバターの匂いがする料理が運ばれてきた。


「おいしそうですね!」

「ポコ~♪」


 イオもポコリナも大喜び。

 久々の肉料理で、私も大満足したのであった。



「王都の夜もおつですな」


「……ああ」


 食事の後は、スタロンと夜の街へ繰り出して酒を酌み交わした。

 王都は夜でも明るく、人で賑わっていたのだ。


 エールに葡萄酒、ラム酒を数杯ずつ飲んだまでは覚えているが、気が付いたら宿の寝具の上で、窓から差し込む陽は明るかった。

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