第24話……大きな真珠

「ポコ~♪」


 ゲイルの地の海岸でノンビリしていると、ポコリナが光る何かを咥えてきた。


 ……ん?

 なにかとよく見てみると真珠だ。

 きっと、ここには天然の真珠貝があるのだろう。



「ちょっと潜ってみてみるね」


「気をつけてね」

「ポコ~♪」


 手を振るイオとポコリナを背に、私は海に潜ってみる。

 驚くことに、ここの海底にはホタテが沢山生息していた。


 色とりどりの海藻を掻き分け、更に深く潜ってみる。

 美しい珊瑚が生い茂る中。

 巨大な真珠貝が呑気に口をあけていた。


 コイツは本で見たことがある。

 確か、大王真珠貝といった魔物であった。


 その貝殻の内側には、見たことのない大きな真珠があった。

 直径10cmといった感じだろうか。

 王都のシャンプールの宝石店で買えば、きっと金貨2000枚はくだらないだろう。


 私は持ってきた短刀を駆使し、大王真珠貝をあまり傷つけずに真珠を取り出すことに成功した。

 他にもたくさん泳いでいた伊勢海老を捕獲。

 麻の袋に沢山入れた。



「ただいま」


「おかえり」

「ポコ~♪」


 砂浜にあがると、西の空に夕焼けがまぶしい。


「こんなのが採れたから、イオにあげるよ」


「ありがとう。……でも、こんな高価な物じゃなくても、お前様が下さる物ならなんでもいいのよ?」


 嬉しいことを言われ、私の方が照れてしまう。

 イオは貴族家の次女に生まれたのに、質素な暮らしを尊ぶ珍しい女子であったのだ。



「お前様、ご飯にしましょう」

「ポコ~♪」


「……よおし!」


 私は、沢山獲ってきた伊勢海老を串にさし、焚火の炎にかざした。

 パチパチとはじける音がし、濃厚な磯の香りが漂ったのだった。


 私達は焼けた伊勢海老を殻から外し、豪快にかぶり付いた。

 濃厚なミソも相まって、肉汁沢山のエビは大変に美味しかった。


 お腹がいっぱいになって、砂浜で寝転がる。

 明日の朝には、自然豊かなここを出発する予定だ。

 空には、数えきれない数の星が輝いていた。



「なぁ、イオ」


「なんです? お前様」


「私と無理やり夫婦になって、嫌な気にならなかったのか?」


 私は以前から気になっていたことを聞いてみた。


「ええ、全然。というか以前に町中でお前様を一目見て、惚れていたのでございます」


 イオは顔を隠しながら小声で言った。


「……あと、私は妾腹でしたので、将来のことは諦めていました。さらに、父上が死んでからは、我が家の先は真っ暗。あの時のお前様は、王子様にも見えたものですよ」


「ははは……、王子様ねぇ」


 なんだかいい話を聞いてしまった。

 私の心は温かい気持ちになって、深い眠りへとついたのであった。




◇◇◇◇◇


 翌朝――。

 ロボスの船に乗り込む。


「錨をあげろ!」


 面白い地を発見したものだ。

 毛皮以外にも、ホタテ貝に海老、真珠も手に入る土地だ。

 しかも誰のモノでもないらしい。

 きっとあの海獣が人の手が入ることから守っていたのだ。


「帆を張れ!」


 出港後。

 更に三日かけて、ゲイル地方を測量。

 詳しい地形を地図に記した。

 その作業を終えると、私達は少し名残惜しさを感じつつも、調査という名の旅行を終えた。


 五日の航海の後、エウロパに帰港。

 王宮宛てに早馬を仕立て、ゲイル地方の地図を進呈。

 更に、その地の領有権を願い出た。


 王宮の東部担当の行政官には日ごろから、高価な心付けを渡してある。

 きっと申請は通るだろうと予想された。




◇◇◇◇◇


 その晩――。

 エウロパの港でのロボスの船で、小さな宴が催された。

 まぁ、航海の無事を祝う祝賀会であった。


「ガハハ! もう海獣はいねぇ! これからはロボス様の時代だ」


 ロボスは樽いっぱいのラム酒を飲み、ご機嫌だ。

 料理は船上であるので、真鯛やうちわ海老の刺身、温かいものではアンコウなどが入った鍋が出た。


「うめぇぞ! もっと酒持ってこい!」

「ポコ~♪」


 この宴での小さな出来事なのだが、ポコリナが誤って葡萄酒を口にしてしまい泥酔。

 酔っぱらって海に落ちてしまうなど、彼女にとっては散々な日になったのだった。


 その翌日――。

 私はイオとポコリナを伴い、馬車でレーベへと出立。

 楽しい海の男たちとの日々に、別れをつげたのであった。




◇◇◇◇◇


「殿!」


 レーベの館で、ここ最近滞っていた書類仕事をしていると、スタロンが血相を変えて駆けこんできた。


「どうした?」


「そ、それが、オヴ殿の使者と申す者が参りまして」


「それが、どうして慌てることなのだ」


「それが……、外にお出になってくだされ」



 彼に促されるまま、外へと出てみると、傷ついたドラゴネットの横で、女騎士が深手で蹲っていた。


「急ぎ薬師を呼べ!」


「はっ」


 呼ばれて来たのは、なんとイオとその侍女だった。

 後から聞いたのだが、イオは趣味で薬の勉強をしており、さらに紅い眼が為せる血統として、最近魔法が実用的なレベルに達したとのことだった。


「急ぎ、部屋に運んでください。あとこの矢は毒矢です。急いで毒消しを持ってきて!」


「はっ」


 普段の呑気なイオとはうって変わり、きびきびと指示。

 まわりの者も急いで騎士を館へと運んだのだった。



「……こ、これを」


 女騎士が震えながらに私に渡した手紙。

 そのなかをあらためると、間違いなくオヴからのものであった。

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