第12話……ロア平原の戦い【後編】

「いざ!」


「おう!」


 2人の勇者はお互いの距離を測りつつ、ジリジリと距離を詰める。

 先に動いたのはモルトケであった。


「うりゃあ!」


 渾身の力を込めた一撃は外れ、彼は膝を地面についた。

 彼は立ち上がり、二度三度とグレードソードを振るった。

 だが、一度たりともオヴの体を捉えることはできない。



「ぬぅん!」


 カキーン――

 オヴの鋭い剣戟が、モルトケの剣を弾き飛ばす。


「貴公は深手を負っているのだ。無理はするな! 手当をしてやる」


 こうして、モルトケは捕縛され、囚われの身となったのであった。

 しかし、モルトケが一騎打ちをしてくれたことで時が稼げ、我が方は丘の上の陣地で、態勢を立て直すことが出来たのであった。




◇◇◇◇◇


 一騎打ちでの勝利の余勢を駆り、敵方の軍勢は我々の立て籠もる高地を半包囲した。


「弓構ぇ~!! 陣を守るぞ!」


 我々の兵は柵の内側で怯え、震える手で弓矢を構えた。


「怯える羊どもを始末してやれ!」


「「「おー!」」」


 敵将オヴの号令に敵軍全体が地鳴りのような歓声を上げる。


 それを見て感じた。

 これは勝てないぞ! ……と。



「スタロン!」


「はっ!」


「至急王都シャンプールに救援の使者を出せ! 女王シャーロット様に助けを乞うのだ!」


「ははっ!」


 敵は此方の後方までは回り込めていない。

 早馬は無事に、王都の方角へと駆けて行った。


 私は全軍を鼓舞するために大声を出した。


「いいか! ここを破られれば、敵に領内に乱入させる。さすれば丹精込めた畑も蹂躙されるのだ! ここが死地と思って戦え!」


「「「おう!」」」


 いくばくか兵士の士気が上がったのを感じる。

 しかし、私がこの時点で一兵卒だったら、いち早く逃げ出していただろう。

 我ながら勝手なことを命令しているのだと感じる。


「皆の者! 敵将は千金を持つと言われるリルバーン子爵だ! 捕えれば恩賞はおもいのままぞ!」


「「「おう!」」」


 やっぱり敵将の方が一枚も二枚も上だ。

 こっちが塩や魚の取引で財を成したのも、ちゃんと知っていたとみえる。



「掛かれ!」


 敵将の号令と共に、敵軍が此方に向け、一斉に丘を登り始めた。


「放て!」


 私は弓を放つよう命じた。

 高低差を活かして矢の雨を降らせる。


 味方の矢は次々に勢いよく敵に突き刺さった。

 敵は両翼の戦線を伸ばしていた為、前線に立つ大盾をもつ兵士の割合は少なかったのも要因した。


「うぐっ!」


 敵兵はバタバタと倒れるものの、前進をやめる気配はない。

 恐るべき士気の高さであった。


「柵を引き倒せ!」


 敵兵の一部が我が方の柵に肉薄。

 力自慢の猛者たちが、猛然と柵を引き倒そうとする。


「敵を追い払え!」


 我が方も柵の中から長槍兵が攻撃。

 なんとか敵を追い払った。



 しだいに、有利な高地で柵の中に籠る我が方は優勢に。

 敵の屍は一方的に増していった。


 ……これは意外とイケるかも?

 私がそう思った瞬間だった。


「レイド男爵の部隊が柵の外へ出撃。逃げる敵を追い散らしております!」


 早馬の伝令が戦況を知らせてくる。


 ……ぉ?

 柵の外でも善戦?

 これは総攻撃のチャンスか!?


 が、


「レイド男爵の部隊、敵に包囲された模様!」


 ……くそっ。

 巧い事、敵に釣り出されただけか!?



「敵が逃げるのは策略! 別命あるまで、決して陣から出て戦うなと伝えよ!」


「はっ!」


 私は怒気を孕んだ命令を飛ばす。

 きっちり守りさえすれば、きっと王都から援軍が来るはず。

 ……だが、いつ来てくれるのだろうか。



「レイド男爵の部隊を救出しました!」


「よくやった!」


 敵に釣り出されたレイド男爵の失態は大きく、救出するのに味方はかなりの失血を擁した。

 だが、味方を見捨ててれば、急造の軍である味方の士気はガタ落ちする。

 見捨てるという選択肢はなかった。


「あとは守るだけだ。柵を出なければ決して負けることはないぞ!」


「はっ!」


 何しろ倍の兵で、高地に施した柵の中で守っているのだ。

 これで負けたらどうしようもない。


 だが、敵兵の士気は落ちず、晩には夜襲もかけられるという惨状だった。



 次第に、戦線は膠着。

 攻める敵方も決め手に欠け、戦況は一進一退となっていった。




◇◇◇◇◇


 開戦から四日目の朝――。

 戦況が好転した。


 私の後ろを守る兵士が叫ぶ。


「味方の兵士だ! 王都から援軍が来たぞ!」


「おお! 味方か!?」

「やったぞ! 我が方の勝ちだ!」


 味方の兵士たちが歓声を上げた。

 私も確認のために、大急ぎで遠眼鏡で確認。

 大軍を引き連れてきたフィッシャー宮中伯を確認した。



「ひけ!」

「さがれ!」


 敵は大慌てで丘の包囲を解いた。


「逃げるぞ!」


 敵将のオヴは素早く退却を指示。

 それに応じて敵は潮が引く様に逃げていく。


「掛かれ!」


 それを見たフィッシャー宮中伯は追撃を指示。

 一万を超える軍勢が、逃げる敵に一斉に牙をむいた。


「我等も追撃だ!」


「「「おう!」」」


 我が方も味方に合わせ、柵での戦闘に以降。

 私は、追撃の指揮をスタロンに任せた。



「……ふう、勝ったかな?」


 私は丘の上で戦況を俯瞰する。

 逃げ遅れた敵の雑兵が、あちらこちらで味方に捕捉されていた。


 しかし、ドラゴンナイトなどの熟練兵は見事に追手を巻いており、追撃戦での戦果は意外なほどに少なかったのだった……。

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