竜騎士戦記〜一介の傭兵から戦術で成り上がる!王女様と領主の娘とぷちハーレム!?領内開発もしちゃいます!~

黒鯛の刺身♪

第1話……敗走

 闇夜に雷鳴が轟く。

 激しい豪雨が地面を叩く。

 ……その時、私は傭兵をやっていた。



「お前たち、逃げるぞ!」

 

 私の雇い主の騎士は逃げることを命令した。

 どうやら我々の戦いは負けらしい。


 我が隊は、騎士を小隊長とし二十五名で構成されている。

 私達は大急ぎで旗をたたみ、テントや道具をしまう。


「早くしろ! 先に行っているぞ!」


 皆で荷造りをしていると、騎士殿は馬に乗って先に逃げてしまった。


「シンカー、俺達も急ぐぞ!」


「ああ」


 傭兵仲間のスタロンが私に声をかける。

 そう、私の名はシンカーと言い、姓は無い。


 これで幾度目くらいの戦場だろうか。

 それゆえ逃げることは一種、特技ともなっていた。

 私は小さな魔法タヌキのポコリナを抱きかかえ、雨にぬかるむ街道をひた走った。


「スタロン! こっちに道があるぞ!」


「おう」


 戦争とは「行きはよいよい帰りは恐い」である。

 その理由は、一旦敗色濃厚となれば、現地の民衆が一斉に敵となり、落ち武者狩りを行うからだ。

 貴族や騎士などを捕まえれば、たんまり身代金が取れる。ここはそんな世界であった。

 よって、分かりやすい逃げ道は、常に敵に襲われる可能性が高く、地元民をまくような獣道を通る必要があったのだ。


「こっちにいたぞ!」

「捕まえろ!」


 だが、すぐに見つかる。

 暗くて姿は見えないが、無数のたいまつの光がこっちへやって来る。

 まぁ無理はない。ここは相手の地元なのだ。


「シンカー、荷を捨てろ!」


「……くそぅ!」


 我々傭兵は、持ち得る家財道具のほとんど持ち歩いていた。

 そのため、荷を捨てるのはかなりの決断を擁する。財産を捨てるのと同義だからだ。


 私はテントや鍋など、重たくかさ張るものから投げ捨てていった。

 主食であるイシュタル小麦の袋を捨てるのは、正直涙目になりそうになる。


 敗軍とは万事こんな感じである。

 輜重部隊に至っては、敵にとって宝の山に見えるはずだった。



「ちぃ! 夜が明けてきたぞ!」


 追いかけて来る農民を、なかなか撒くことが出来ない。

 農民たちは鎌などの農具を手に、こちらに向かって猛然と駆け寄って来る。


 背中に背負った相棒であるロングソードでさえ重く感じる。着てきた鎧は皮鎧で正解。金属鎧ならまず走って逃げることはできないだろう。



「……た、助けてくれ! 褒美は幾らでもする!」


 逃げる途中、疲れ果てて座り込んでいる貴族と出会った。

 乗り潰した馬の傍にうずくまり、寒さに震えていた。

 きらびやかな陣羽織が、酷く汚れているのが印象的だった。


「悪いが助ける余力がねぇ!」


「……そ、そんな」


 非情な言葉を掛け、一気に通り過ぎる。

 こちらだって自分が逃げるので一杯一杯なのだ。



「……お! 良いのがいたぞ!」


 追いかけて来ていた農民たちの目標が、先ほどの貴族に切り替わった。


「……今だ、そこの茂みに飛び込め!」


「了解!」


 私とスタロンは茂みに身を隠す。息が上がって胸も痛い。


「ポコ!」


 魔法タヌキのポコリナが、我々の気配を消す魔法を使う。

 彼女は派手な魔法は使えないが、地味に役に立つ魔法が使えたため、歴戦の友として連れていたのだ。


「……」


 追手の気配がない。

 どうやら追手を撒けたようだ。

 代わりに、先ほどの貴族様が捕まってしまったが……。


 そこからさらに二日間逃げまどい、ついに三日目の朝、ガーランド商国の領域から脱出に成功したのだった。



 統一歴560年――。

 三か国を治めるオーウェン連合王国が、ガーランド商国に侵攻した戦争は、オーウェンのカール王の戦死によって大敗北の形で幕を閉じたのだった。




◇◇◇◇◇


「じゃあな、シンカー。また会おうぜ!」


「おう!」


「ポコ!」


 国境近くの宿場町で私はスタロンと別れた。

 ここまでくれば、少しは安全といった感じだからだ。


 しかし、……は、腹が減った。

 ポコリナも腹が減って不機嫌だ。


「親父! 部屋はあいているか?」


「すいません。いっぱいですじゃ……」


「じゃあ、飯だけくれ!」


「はい、こちらへどうぞ」


 目についた宿屋を訪ねたが、あいにく同業者で部屋が一杯だった。

 私はロビー横の食堂に案内される。

 食堂も戦地から帰ってきた人でいっぱいであった。



「……くそっ! 何だこの値段は!?」


「嫌なら他を当たってください」


 メニューを見ると、ほとんどの品が相場の五倍以上したのだ。

 宿屋も商売とは言え、なかなかに小狡いことをしてくる。


「白パン6枚と、トウモロコシのスープをくれ!」


「毎度!」


 私は前金で小銀貨を6枚支払う。逃げてきた道中、ほとんど何も食べていなかったのだ。

 とりあえず、何でも食べて元気にならねば……。


 私は出来てきた料理にかじりつき、獣のように食べた。

 食べ終わると、ようやく生きて帰ってきた実感が湧いたのだった。


「……ふぅ」


 結局、その晩はどの宿も部屋が空いておらず、泣く泣く臭い馬小屋で寝た。

 疲れていた為か、意外に藁の寝床も悪く感じず、すぐに寝入ったのであった。



翌朝――。

 朝食を宿で獲った後、パン屋でパンを買い求める。


「4つのお買い上げで、20ラールになります」


 小銀貨を二枚支払い、お弁当用のイシュタル小麦で出来た白パンを四枚受けとる。

 イシュタル小麦とは、この地方で多く栽培される小麦で、春と秋の二期作が主流であった。


 昼過ぎまで街道を歩き、丁度良い岩を見つけ腰かけた。

 袋から白パンを取り出し、香りを嗅ぐ。

 焼きたての香りは素晴らしく、私とポコリナはすぐに二枚を平らげてしまった。



 お昼を食べ終わり、再び街道を歩いていると、貴族らしい身なりの少年が、敗残兵とおぼしき三人連れに絡まれているのに遭遇した。

 敗残兵たちは泥で汚れた皮鎧に、斧や短剣で武装していた。


「そこのお前!」

「いいもん着てんじゃねーかよ。金を早く出せ!」


「……」


 金目の物を渡して見逃してもらえばいいものを、少年は沈黙。

 いや、恐怖で声が出ないだけか……。


「金を出せって言ってんだよ!」


 敗残兵が少年の奇麗な服を乱暴に引っ張り、少年を地面にたたきつけた。

 すると服が破れ、白い肌が見える。


「きゃあ!」


「きゃあ、……だと? さてはお前、女だな!」

「くっくっく、どおりで可愛い顔をしているわけだ。まず俺様が味見してやるぜ!」


 少年の正体が少女と分かるや否や、敗残兵たちは下卑た笑いを浮かべ、少女を取り囲んだ。


 ……三人相手は嫌だなぁ。

 そう思ったが、結局、私は少女を助けることにしたのだった。

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