第15話 最後に気づいたこと
「あはは。まあ、それについては私も人のことは言えないけどね。だから高校に入る時は本当に緊張したんだ。だって今まで、普通の同年代の子とちゃんと話したことなんてなかったから」
リノがお気楽に笑う中、サヤは苦笑混じりに言った。
「よく進学なんて許してもらえたな」
俺は率直な感想を口にした。
「考えてみればそうね……。一応は親族だし、お情けだったのかしら」
「なるほど」
「私ね、この町には本当に感謝しているの。高校では、みんな優しくて楽しくてたくさん友達ができたし。いつもの商店街の人たちも優しくて親切で。困ったことがあればなんでも助けてくれたし」
「おい、聞いたか、リノ。今のが本当のなんでも、だ。おまえ、町に出て千日ばかり皆様の話を聞いて勉強してこい」
「やーですー。それよりジュースおかわりー」
「君というヤツは」
仕方がないので俺は冷蔵庫から新しいジュースを持ってきた。
渡すと、また静かになる。
「だからね、私も困っている人がいれば助けてあげたいと思って。私にできることがあればしてあげたいと思って。だから、貴方に声をかけたの。退魔の仕事なら私にもできるし。逆に助けられちゃったけどね」
おい、リノ。
最強無敵のリノさまよ。
何か気の利いたコメントを、言ってやってはくれないか。
俺は正直、気の利いたコメントを思い浮かず、リノに心の中で助けを求めたがリノの返事はなかった。
「あと、聞きたいことはある?」
「いや……。十分だ」
俺は答えた。
正直に言うと、何かひっかかっていたが、思い出せなかった。
重要なことのような気もするのだが。
なんだったか……。
「さて」
膝に手をついてサヤが身を起こす。
立ち上がったところで、「んっ」と全身に力をこめる。
すると姿が元に戻った。
獣耳と尻尾が消えて、髪の色も変わる。
「最低限の力も戻ってきたし、じゃあ、私はそろそろ帰るわね」
「いや、しかし、夜も遅いぞ?」
「泊めてくれるの? あれ、ていうかリノは?」
「コレは橋の下だが」
「え」
リノが反応した。
「え、あの、タクヤくん……?」
「君は橋の下だろ?」
「え。あの、ちょっと待って!? 私達、今日から家族だよね? 共にここで暮らすんだよ知ってた?」
「知らぬ。存ぜぬ。聞いておらぬ」
「そんなー! じゃあ、今から知ってよー! 教えてあげるからー!」
「ええいっ! すがりつくな!」
くっついてきたリノを、俺は引きずり離す。
「ひーどーいー! ……ていうか、ふんっ、いいもん。私、布団に入ったらもう出るつもりありませんから!」
「あはは。仲いいのね。本当に君達、今朝、会ったばかりなの?」
「なあ、真面目な話、泊まっていってもいいぞ?」
「そうよ。もう夜も遅いんだし。この私もいるんだから、こいつに変なことなんてさせないから平気よ?」
「……ありがとう。でも、家に帰るよ。後始末もあるし。
私……。
二人のおかげで助かったけど……。大変なことをしちゃったしね……」
精一杯の虚勢で笑って、サヤが俺の家を出ていく。
俺とリノは二人きりになった。
「……なあ、リノ。どう思う?」
「心配だね」
「ああ……。なあ、リノ。ところでそういえば、異世界で魔王になった俺はサヤの術を受けていたのか?」
「受けていなかったと思うよ。だって魔王になったキミは、レンタルカレシとデートに出かけて新たなる世界の扉を開けるわけだし」
「そうか……。俺は実は、サヤの術を受けて幸運だったのだな」
酷い目にはあったが……。
マッスルマッスルの扉を開かずには済んだ。
「おかげでサヤは地獄に落ちたけどね」
「いや、それは君のせいだろう?」
「はー? タクヤでしょー。私のせいにしないでよー」
「何を言う。強引に魔法で拉致したのはどこの誰だ」
この後しばらく責任をなすりつけあった。
そして疲れたので、今夜はもう寝ることにした。
まあ、細かいことは明日だ。
頭がすっきりしてから、また考えればいい。
そう思ったのだが……。
ちなみにリノは、結局、居着いた。
封印されし妹の部屋や両親の部屋を使わせるわけにはいかないので、今夜はリビングで寝ている。
武士の情けで毛布はくれてやった。
正直、空き部屋はある。
最悪、貸してやるしかあるまいが。
暗い部屋の中でベッドに寝転び、俺は一人、冷静に考える。
まったくこれから、どうなっていくことやら――。
今日は大変な一日だった。
朝、いきなりリノがいて、気づけば儀式の生贄にされて。
鬼に襲われて。
ここで俺は、はたと気づいた。
「鬼! 鬼だ!」
襲われて、山で撒いた鬼は、一体どうしているのか!
リノは退治していない。
俺も不覚にも存在を忘れていた。
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