#3
「失礼致します」
脂肪を固めた何かが
長身で白髪交じりの短髪、脂の乗った皮膚と少し赤ら顔の彼は、事前に頭へと叩き込んだ写真通りの男だった。彼は「ようこそ」と快活な声で笑うと、扉を開いてすぐに広がるカーペットを土足のままのしのしと歩く。
「いやぁ、まさか私が新聞の取材を受けることになるとは……ミスター・エリック、貴方にお会いできて本当に光栄です」
案内されたソファに腰を下ろした俺の機嫌を取るような彼の言葉に笑いが込み上げるのを必死で嚙み殺した俺は、「こちらこそ取材へのご協力、感謝致します」と口先だけで述べる。
「感謝なんてとんでもない」
ソファとソファの間に置かれたテーブルにホットコーヒーを2組運んだダグラスは、「それで……」と言いながらどっかりと向かいのソファに腰を沈めると、こちらを窺うような視線を送った。
「『過去の事件への取材』とお聞きしておりますが、どういった内容でしたか?」
口調も物腰も柔らかな彼が孕む空気はどこか冷たく、まるで虎視眈々と鼠を狙う猫のような狡猾さを感じる。俺はその空気を躱しつつ悟られないように一際目を弓形にして微笑う。
「ダグラスさんが警部に昇格したのは10年前、当時の年齢では飛躍的な活躍だったとお聞きしております」
「まぁ、その時は私も若かったですから。……今となってはノルマに追われているようなものですよ」
謙遜らしい言葉を吐きつつ、満更でもない表情を見せる彼はコーヒーカップに手を掛けると、嬉しそうにブラックコーヒーを一口流し込む。
プルルルル……プルルルル……ッ
丁度カップを置くタイミングで彼の電話が煩く鳴り響き、絶妙な邪魔者を疎むように咳払いをしたダグラスは「おっと失礼、部下からだ」と苦笑いする。
「出て頂いて構いませんよ、お待ちしてますから」
愛想を取り繕った俺はポケットを弄りながら彼を催促すると、「申し訳ない」と軽い会釈をして
彼の姿が見えなくなったと同時に取り出した白の包み紙から半分程をダグラスのカップに注いだ俺は、その粉末がサラサラと水面に散らばってゆくのを静かに見届ける。闇夜に舞う雪のような顆粒はそっと溶けて姿を消すと、俺は差し出された自身のコーヒーカップを覗き込む。
「──It's a show time」
スープよりも禍々しい色をした褐色の液体は、苦々しい香りの温もりを連れて俺の鼻孔を通り抜けると、そそくさと空気に逃げ込んだ。
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