#2
路地裏を迷路のように進み、人目にも付かず朽ちるゴミのような薬漬けの肉の塊を横切る。きっと肉であったもの、皮であったのも、骨であったものを寄せ集めた汚物の悪臭が酷く鼻につくが、その香りを嗅ぐのは慣れていた。
冷ややかな目でそれらを見下ろした俺は、せっかく磨いてきた靴が汚れる方が迷惑だと思いつつ眉を寄せる。
ダグラス・マクスウェル。
47歳。
男性。
10年前に警部へ昇進。
何度見ても呆れるほど肉々しい
焦茶色の革靴が音を立てる度に強く感じる高揚感で足取りが軽くなる俺の心中を占めるのは、残念ながらこれから会う男なんかじゃない。
──『僕は、もう1人の僕を殺した奴らに復讐がしたい。でも、僕1人では何も出来ない……だから、お兄ちゃん……お兄ちゃんだけはいつまでも僕の味方でいてくれる……?』
健気にも自身の代役にまで慈悲をかける俺の天使は、この所業をどう喜んでくれるだろう?
思いもよらなかったクリスマスプレゼントに心を弾ませる俺は、廃れた路地裏から抜けて都会の中央地点に顔を出す。相変わらず騒がしい人の群れと車の排気ガスに揉まれて進む目的地は豪勢なビル街で、俺はジャックから送られてきたメールに記載された地図を確認する。
「馬鹿と煙は高い所へ……ってな」
11時17分。
携帯の端に表示された時刻を確認してから該当する高層ビルを見上げると、窓硝子に反射した日光に目がひりつき、俺は思わず悪態を吐く。どうしようもなく昂ぶる感情を押し留める為に腹の底から深呼吸をした俺は、胡散臭い笑顔を作ってオートロックのボタンを静かに押す。
ピンポーン……ッ
小気味のいい軽快なチャイムが鳴り、「はい」と待ち望んだような明るい声が応答する。
「お待たせしてすみません、私、新聞記者のエリック・ルータと申します」
──憐れな家畜だ。
外面だけ取り繕った表情の下で、俺は何も知らぬ間抜けな頓馬を簓笑う。
さぁ吐き出せ。
お前の悪行も、黒幕の尻尾も。
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