バイト先に来る人気美少女アイドルに何故かストーカーされている

もんすたー

第1話 常連のアイドル様

「先輩、あの噂のアイドルさん。また来店してますよ」


「あ、ホントだ……すっかり常連だな」


金曜の夜7時過ぎ。テーブルの掃除をしている俺に、後輩は小さく耳打ちをしてくる。


「それに、先輩のことチラチラと見てますよ」


「気のせいだろ。アイドル様が俺なんかバイト風情目当てで来るわけないだろうが」


あり得ないことに、俺、三岳五月(みたけいつき)はつい鼻で笑ってしまう。

窓際の角席、最近よく来店する件のアイドルは、来るたびにその席に座っては、俺の働くカフェで有名なホットコーヒーとミルクレープを頼む。


「そこの席、キッチンとかがよく見える席だし、絶対先輩を狙ってますって」


「くだらん妄想をしてないで手を動かせ」


と、後輩の頭をトレーで軽くたたく。


あの有名アイドルが俺を狙ってるとか……ないない、夢のような話があるわけない。

『スター☆ブライト』それが、このカフェの常連になっているアイドルが所属するアイドルグループ。


シングルやアルバムを出すたびにオリコン1位。動画配信サイトでも新曲を出すたびに急上昇ランキング1位になるし、開催するライブはドームや武道館でさえ満員になる。


チャンネル登録者数である200万人の動画配信者でもある。

そのアイドルグループのセンターを務めるのが、今、窓際の席で美味しそうにコーヒーを飲んでいる渚心月(なぎさみつき)である。


そんなアイドルグループに所属している彼女は、永遠のセンターと呼ばれるほどにグループ内で一番の人気を誇る。

スタイル抜群、ダンスも歌唱力もメンバーの中でズバ抜けている。


アイドルなどに詳しくない俺でさえ、彼女の名前を聞いたことがあるほどに有名。

最近、テレビやSNSのおすすめで出ない日はないほどに、大人気アイドルである。


「三岳くん。4番テーブルにお願いね」


「了解です」


キッチンから出されるのは、生クリームがたっぷりと使われ、クレープ生地が綺麗に何層にも重なるミルクレープ。


「先輩、注意してくださいね。襲われたりしないように」


「アイドルが店内で人を襲うかよ」


後輩にそう言われると、俺はトレーにおしぼりとフォーク、そしてミルクレープを乗せながら答える。


このミルクレープを注文したのは、4番テーブル。ズバリ、あのアイドルが座る席である。

俺が後輩とやり取りをしている時も、チラチラとこちらに視線を感じる。


そして、俺が注文した品を持ちながら席に向かおうとすると、目を逸らし、もじもじと肩を揺らしている。


……あれ、これガチで俺見られてるのか?


いや、まだ確定したわけじゃない。ただ俺が思い込みすぎなのかもしれない。

注文の品が運び込まれて来る時、そわそわしたり店員を見たりすることは俺でもある。


だからこそ、後輩も俺も思い込みすぎだ。

それにしても、後ろ姿からでもオーラがすごい。


周囲から『渚心月』だとバレないように、黒のパーカーとスキニージーンズ。

マスクにサングラス、フードもかぶって完全防備なのだが、それらを突き抜けて一般人とは違うオーラを発している。


普通の人が着れば変質者の格好だが、着こなしているのも異常だ。

スタイルの良さに関してはパーカー越しでも伝わってくる。


直接的な接触は避けたいが、これは仕事だ。賃金を貰ってるからにはちゃんと仕事を全うしなければ。

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