第8話 三年の妊娠期間
三年?聞き間違いだろうか?
「さ、さん…ねん? 三年って言いましたか?」
「はい」
「な、なんで…なんで三年?」
「どうしてと言われても、さっきもお話したように、我々の寿命は地球の人間より長いんです。人の三年は我々に取っては決して長くありません。そんな我々の子供が育つのに、それだけの時間がかかるということです」
三年?
三年もこの状態?
和音は愕然とした思いでお腹を見下ろした。
「大丈夫です、和音。あなたのことはお腹の子供も含め、私が責任を取ります」
燕が和音の手を握り、何も心配しなくていいと言ってくる。
「あの…え、」
その時、彼の袖口からキラリと光るものが見えて、和音はそこに視線を向けた。
それはキラキラと輝く鱗のように見えた。
(え、なに? ファッション?)
最初入れ墨のようなものかと思ったが、ふと顔を上げてよく見ると、首筋などにも同じようなものが見える。
「和音、どうしましたか?」
「あ、あの…え、燕さん…その肌」
「肌? ああ、これは先祖還りの特徴です」
「先祖?」
「はい、我々の先祖は地球で言うところの竜人というものに似ています」
「竜…人?」
エルフじゃくてドラゴン?
「じゃあ…その私…私の中の子供って、た、卵?」
「いえ、そこは竜人ですから、ちゃんと人類と同じです」
「そうですか…」
「他に聞きたいことは?何でも答えますよ」
そう言われても、何から聞いていいのか。
「あなたのことは、私が大切に護ります。そうお伝えしたら、お母様はとても喜ばれていました。これであなたを一人にしなくてすむと」
母が自分が死ぬことより、私を一人残していくことを恐れていたのは知っていた。
和音もそれを不安に思っていた。
「でも、話が飛び過ぎ…いきなり見ず知らずの人…宇宙人の子供なんて」
しかも処女のうちに懐妊とは。
色々騙された感があって、母が生きているなら文句のひとつも言ってやりたかったが、彼女はすでに煙となってあの世に行ってしまっている。
本当は、こんなのあり得ない。人の体を実験体のように使って、しかも妊娠なんて。
ある意味人権を無視した行為だ。
でも、湧き上がる筈の怒りの感情が、なぜか起こらないのは、もう和音の気持ち以前に体が妊娠を受け入れてしまっているのかも知れない。
代理出産なども、日本では認められているかわからないが、外国では聞いたことがある。
そういう仕事だと思えば、いいのでは?
もちろん、目の前の男性に愛情など持ち合わせていない。
イケメンだけど、愛せるかと問われたら、わからない。
「燕さんでしたっけ」
「はい、でも『さん』はいりませんよ」
「これから私、どうなるんですか? 普通の妊娠じゃないですよね。まさか、子供が母親のお腹を切り裂いて出てくるとか?」
映画の見すぎと言われても仕方がないが、○ー○ーマンの実在モデルがいたなら、○イリ○○とかの映画だって、もしかしたらリアルさを追求しているのかも知れない。もしくはスピ○○ー○とか。
「大丈夫です。生まれてくる子が特殊な能力を持っているだけで、普通の出産と変わりません」
出産だって人によって違う。それでも安心は出来ない。
「何度も言いますが、私があなたとお腹の子を護ります。サポート体制も万全です。これから先のあなたの体に起こる変化も、すべてお教えします」
取り敢えず、お腹は引き裂かれずに済みそうでほっとする。
「えっと…では、これからよろしくお願いします」
「そんな、他人行儀はやめましょう。もっと楽な話し方でいきましょう」
「でも、あなたも…」
「そうか。では、今から敬語はなしでよろしく」
不意に口調が変わり、そのギャップに驚く。
育ちのいいお坊ちゃん風の容姿からの砕けた口調に、思わずどきりとした。
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