第141話 対策会議

 深紅のところへお見舞いに――と思っていたけれど、今回の件に深く関わってしまっている俺達は、警察署の広い会議室に通されていた。


 俺、桜ちゃん、碧に俺達の両親や、暗黒十二星座ダークネストゥエルブの面々。それに、テレビでインタビューされるような有名なヒーローや魔法少女が揃っていた。


「「お姉ちゃん!!」」


 会議室に入ると、見慣れた双子が俺に抱き着いてくる。


「ツヴィ! リング!」


「「えへへ! 憶えててくれてたんだね! ありがとう、お姉ちゃん!」」


 相変わらず仲が良い二人は、同時にタイミングがずれる事も無く言葉を発する。


 二人は俺から離れると、えへへと照れ臭そうに笑う。


 二人との予想外の再会を嬉しく思いながらも、ふと疑問に思う事がある。


「でも、どうして二人がここに?」


 俺が当然の疑問を訊ねれば、二人は少しだけバツが悪そうな顔をする。


「こいつら二人も暗黒十二星座ダークネストゥエルブだ。双子座のツヴィリング」


 二人の背後からシュティアがやって来て、二人の頭を乱暴に撫でながら言う。


「そっか、二人ともファントムだったんだね」


「ああ。……本来ならあんたとは敵対関係だ。だから、言い出しづらかったんだろうよ」


「ふふっ、俺は気にしないのに。碧とだって仲良しだし、ツィーゲとも仲良しなんだから。俺、二人とも仲良くしたいな」


 しゃがみながら、二人の顔を見て言えば、二人はぱぁっと華が咲いたように笑みを浮かべて再度俺に抱き着いてくる。


「はぁ……んっとに、お前等こいつが好きなぁ」


「「だって、お姉ちゃん優しいもん!」」


「オレだって優しいだろうがよ……」


 二人の言葉に、シュティアは拗ねたように言葉を漏らす。


「こらーそこー! 到着したなら早く座るメポ!」


 メポルがスクリーンの前に立って俺達に指示棒を向けてくる。例によってメポルは人間形態である。


 メポルの言葉を受けて周囲に目をやれば、心なしか視線を集めている。


 俺は少し恥ずかしくなりながらも、二人の手を引いて手近な席に着いた。


 シュティアはしょげたような顔をしながらも、俺達と並ぶようにして座る。


「おほんっ! では、そろったようなので始めさせてもら――」


 メポルが開始を宣言したその時、会議室の扉が開かれる。


 もう始まるといったところで扉が開いたので、自然と全員の視線はそちらに向く。


「すみません、遅れました」


 そう言って入って来たのは、ところどころに包帯やガーゼを貼った深紅だった。


「深紅!? な、なんでここに!? 病院は!?」


 思わず、矢継ぎ早に問い詰めてしまう。


「こんな時に呑気に寝てられるかよ。それに、負けっぱなしは性に合わないんだ」


「和泉深紅はメポルが呼んだメポ。今回の件、どうしても和泉深紅の力が必要メポ」


「だからって、まだ怪我だって治ってないでしょ!? 悪化でもしたら――」


「これは和泉深紅も同意の上メポ。黒奈の是非は関係無いメポ」


 俺の言葉を、メポルは冷たい声音で遮る。


 メポルがこんなに冷たい声を出すのは初めての事で、俺は少しだけ驚いてしまう。


 けれど、素に戻ればふつふつと怒りが湧いてくる。


「……勝手にしろ、ばかっ……」


 一つ文句を言って、俺は乱暴に椅子に座る。


 少しばかり会議室の空気が悪くなるけれど、そんな事気にならないくらいには、頭に来ていた。


「和泉深紅、さっさと座るメポ」


「……ああ」


 メポルに言われ、深紅は手近な場所に座る。


「これで本当に全員そろったメポ。では、始めさせてもらうメポ」


 厳めしい声で今度こそ会議の開始を宣言するメポル。


「今回の件、揃ってくれた皆も知ってると思うメポ。ファントム、ヴァーゲの策謀によって、我々の三世界が一つになろうとしているメポ」


「はいはーい、質問!」


「どうぞメポ」


「その、三つの世界が一つになるのって、どうやって? ちょっとスケールでか過ぎて信じらんないんだけども」


「それについてはフィシェから説明してもらうメポ」


 言って、メポルはフィシェに視線を向ける。


 心得たとばかりに頷いたフィシェは、立ち上がってスクリーンの前に移動する。


「それでは、説明は私が代わらせていただきます。三世界の統合についてですが、これにはヴァーゲの作り出した天秤と双極の特異点によって可能になります」


「――っ」


 花蓮が? なんで……。


 俺の動揺を余所に、フィシェの解説は進む。


フィシェがリモコンのボタンを操作すれば、スクリーンに解説図が映し出される。


「この地球に天秤の支柱を、精霊の世界とファントムの世界には皿を設置してあります。支柱付近にヴァーゲ、二つの皿に双極の特異点を一人ずつ配置します」


「質問良いかい?」


「どうぞ」


「その、双極の特異点とはいったいなんなのだい? そもそも、特異点と言う存在自体、聞き馴染みが無いのだけれど……」


「申し訳ありません。そちらの説明がまだでしたね。特異点とは、魔力的に異常に優れた者、または特別な魔力を持った存在を指し示す呼称です。そこに座っている彼、如月黒奈さんも元々は特異点です」


 フィシェの言葉に、皆の視線が俺に集まる。


「「フィシェ、失礼だね! お姉ちゃんなのに、彼だって!!」」


 ただ二人だけ、他の事に意識を持っていかれている。これが終わったら、改めて訂正しよう。


「双極の特異点とは、陰と陽二つの力を併せ持つ存在です。それが、彼の妹、如月花蓮さんです」


「なるほど。特異点の事は分かった。けど、その特異点があるだけで何が出来る? ただ二つの力を持ってるだけなんだろ? それだけで、世界を一つに出来るとは思えない」


「ごもっともな質問です。ですが、結論から言えば世界の統合は可能です」


 フィシェが断言すれば、会議室全体がざわめく。


 その騒めきを気にする事無く、フィシェは進める。


「まず、双極の特異点は二人に別たれました。如月花蓮さんが、陰と陽に別たれてしまったのです。ヴァーゲは別たれた二人の如月花蓮さんが元の一人に戻る力を利用して、二つの世界をこちらの世界に引っ張って三つの世界を一つにするつもりです」


「ちょっと待って。二つの世界をこっちに引っ張る理屈は分かった。けど、それって引っ張るだけでしょ? それとも、あんた達の世界も元々は一つだった訳?」


「いえ、私達の世界が元々一つだったとは聞かされていません」


「じゃあ、どうやってくっつけるのよ? 引っ張ってぶつかって、三つの世界が壊れて終わるって結果になるんじゃないの?」


「それは私も危惧していた事です。ですが、それもヴァーゲは解決していました」


 フィシェがリモコンのボタンを押せば、図が少しだけ変化する。


「元々、ヴァーゲの作り出した天秤自体が双極の特異点の力を増幅させるためのものです。それによって、双極の特異点の性質を増幅させ、増幅した力を世界に同調させます。世界に、元に戻るという性質を付与するのです」


「はぁ……なんだか出来の悪いSF映画見てるみたい……」


「暴論に聞こえるかもしれませんが、事実です。ヴァーゲの力と双極の特異点の相性は恐ろしいほど良いのです。それに、双極の特異点を二人に別けたのは他ならぬヴァーゲです。彼は、私以上に今回の事を熟知しています。彼が出来ると言えば、可能なのでしょう」


「結局それが正しいっていう根拠は、ヴァーゲってやつが断言してるからって事ね……」


「メポル達もその事については何度も吟味したメポ。けれど、双極の特異点。それに、今まで奪ってきた人達の感情エネルギーの総量、ヴァーゲの能力を考えると完全に出来ないとは断言できないメポ。それに……」


「もう一つの特異点。可能性の特異点がヴァーゲの手に渡ってしまいました。これは、双極の特異点よりも稀有で強力な特異点です」


「可能性の特異点は……」


 メポルの視線が俺に向く。


 ここから先を、話しても良いかどうかの確認だろう。


「……」


 俺は、一つ頷く。


 元々、ここに呼ばれる趣旨は聞いていた。だから、俺がブラックローズだって知られる事も分かっていた。


 必要な事なら、全部話してくれて構わない。


 メポルは俺から視線を外すと、説明に戻る。


「……可能性の特異点は、元々ブラックローズの力メポ」


 メポルの言葉の意味に気付いた者が俺に視線を向ける。


 先程、俺が特異点だという事は説明されている。だから、ブラックローズが特異点だと分かれば、俺の正体にも自然と行き着くだろう。


 スクリーンにブラックローズの姿が映し出される。


 ノーマルフォルム。ガンスリンガー、ブラスター、マーメイド、アリス……その他、様々なブラックローズのフォルムチェンジの姿。


「知ってる者も多いと思うメポ。ブラックローズは、他の追随を許さない程フォルムチェンジが多いメポ。他の者は多い者で四つ程。けれど、ブラックローズは十を軽く超えるメポ」


「自身の思い描いた、自身が到達する可能性の姿。それがフォルムチェンジです」


「人間、そんなに可能性は多くは無いメポ。中には、フォルムチェンジが無いヒーローも居るはずメポ」


 心当たりがあるのか、数人が騒めく。


「けど、勘違いしないで欲しいメポ。フォルムチェンジはあくまで力としての発現メポ。力以外の事には関与してないメポ。自分の未来が無いとは、思わないで欲しいメポ」


 やんわりと、諭すような口調でフォローを入れるメポル。


「ただ、力だけとは言え、ブラックローズのフォルムチェンジは多いメポ。その理由が、可能性の特異点メポ」


「可能性の特異点の力で、ブラックローズは幾つものフォルムチェンジを発現しました。本来ならば数個しかないはずのフォルムチェンジを十以上も増やすなんて、並みの力では無い事は、フォルムチェンジを知っている皆様なら良くお分かりでしょう?」


「可能性の特異点の力はそれだけじゃないメポ」


 ちらりと俺を見た後、メポルは意を決したように言う。


「ブラックローズはそこに居る如月黒奈が変身した姿メポ。男である黒奈が魔法少女になるというのは、並大抵の魔力量じゃないメポ」


 メポルがそう言えば、今度こそ全員の視線が俺に集まった。

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