第55話 模擬戦

 深紅が青崎さん達を手伝うと決めてから、翌日の放課後。俺達は、さっそく碧の家に集まっていた。


 場所の提供を碧がしてくれると言うので、甘えさせてもらったのだ。


 全員が運動着に着替え、屋敷の庭に集合する。因みに、花蓮と桜ちゃんも一緒だ。


 全員が揃うと、深紅は早速始める。


「じゃあまず、五人の動きを見たいから変身して俺にかかって来てほしい」


 そう言って、深紅はクリムゾンフレアに変身する。


 変身した深紅を見て、五人も変身をする。


「「「「「アトリビュート・コンバート!」」」」」


 五人は契約精霊から腕輪を受け取り、腕輪を使って変身する。


 青崎さんが水に、赤城くんが炎に、黄河くんが光に、白瀬さんが氷に、黒岩くんが闇に包まれる。


 そして、それぞれの属性が霧散し、中から変身した五人が現れる。


 同じデザインの、しかし、男女で若干の差異がある衣装だ。


 変身時の服装は、自分の意思である程度変えることが出来る。デザインを似せる事も出来るので、彼らの衣装のデザインが揃っているのもそのためだろう。


 俺も初期とは少しだけデザインを変えたり、スカートの下にスパッツを履いたりもしている。


 因みにだが、ガンスリンガー・ローズの時の薄着はどうしようもない。いつも咄嗟にフォルムチェンジをしているので、デザインを修正する時間が無いのだ。


 ともあれ、彼らの変身は完了した。


 赤城くん――レッドが即座に構えをとってクリムゾンフレアに突っ込む。


「よっしゃ、行くぜぇ!!」


「ちょ、バカ! 勝手に突っ込まないで!」


 青崎さん――ブルーが注意をするものの、レッドは止まらずに進む。


「ああ、もう!」


「僕達も加勢しましょう」


「分かってる! 皆、行きましょう!」


「う、うん!」


「分かった!」


 レッドに遅れて、四人もクリムゾンフレアに向かう。


「お、らぁッ!!」


 真っ先にクリムゾンフレアに迫ったレッドが、気合いの声と共に拳を振るう。


 が、それをクリムゾンフレアは意図も容易くさばき、カウンターとして蹴りを入れる。


「ぐっ……!」


「足並みを揃えろ。何のための人数だ」


 言いながら、更にもう二撃攻撃を加える。


 レッドが追加の攻撃を受けたところで、ようやく四人が深紅のところまでやってきた。


 しかし、一番槍を勤めたレッドは、大きく吹き飛ばされていた。


 十メートル以上吹き飛ばされたレッドを見て、花蓮が苦笑を浮かべる。


「うわ、容赦無い……」


「さすがに、手加減はしてるよ。深紅が本気なら後四回は叩けてたし、飛距離も今の比じゃないよ」


「でも、凄く鈍い音しましたね……ううっ、痛そう……」


「まぁ、確実に痛いだろうね……」


 かくいう俺も深紅との組み手の時に盛大に攻撃をくらった事があるけれど、めちゃくちゃ痛かった。


 痛すぎて思わず本気で殴り返してしまったくらいだ。


 その後、互いに収集がつかなくなりボロボロになるまで組み手したっけ……さすがに、碧に怒られたけど……。お互い生身だったから、傷とか派手だったなぁ。今となっては懐かしい思い出だ。


 そこから二人とも段々加減を覚えてきたんだよね。


「しっかし……加減してるとは言え、ぽんぽん飛ばしてくなぁ……」


「私、人がぽんぽん飛ぶところ初めて見たわ……」


 俺達が話をしている最中も、彼らは面白いようにクリムゾンフレアに吹き飛ばされている。


 その中でも一番吹き飛ばされる回数が多いのがレッドである。次いでブルー、黄河くんイエロー黒岩くんブラック白瀬さんホワイト、といったところだ。


 レッドは言わずもがな、何度も無謀に突っ込んでいくため、必然的に吹き飛ばされる回数が多い。


 ブルーとイエローは連携こそしているものの、それは二人の・・・連携であり、他三人の事は考えられていなかった。


 結果、ホワイトとブラックは足踏みする場面が多々あった。レッドは構わず動き回って攻撃を繰り出しているけれど、それも息があっている訳ではなく、持ち前の反射神経と勘の良さで回避しているに過ぎない。


 ホワイトは怖いのかクリムゾンフレアに向かう回数が一番少ない。行ったな~と思うとクリムゾンフレアによって即座に退場させられ、そのたびにびくびくと怯えてしまっている。


 戦わないので回数が一番少ない、といったところだ。


「それにしても、意外だね」


「そうですね。もっと脳筋のうきんなのかと思ってました」


「脳筋って……さすがに失礼じゃない?」


「え? あ、えっと……そう! 真っ直ぐな子だと思ってました!」


「さっきの発言の後だと嫌味にしか聞こえないなぁ……」


「あ、あはは……」


 渇いた笑い声をあげる桜ちゃん。


 まぁ、俺も考えていた事は似通っているので、あまり人の事を言える訳では無いのだけど。


「黒岩くん、結構タフだねぇ~」


 碧が感心したように言う。


 そう、ブラックが一番深紅に吹き飛ばされる回数が少ないのは、ホワイトのように戦っていないからでは無い。むしろ、積極的に攻撃に当たりに行っているにも関わらず、吹き飛ばされる回数が少ないのだ。


 理由は単純で、彼が深紅の攻撃に耐えているからだ。


 何度も何度も、吹き飛ばされそうになる身体をしっかりとその両足で支えているからだ。


 それに、攻撃の受け方が良い。攻撃を上手く流すように身体を動かせている。


 真っ向から受け止めるのではなく、受けた力を流しているのだ。


 意外や意外。俺と戦ってる時はそんな姿を見せなかったのに……いや、当たり前か。俺と深紅では戦闘スタイルが違う。


 深紅は力と技で、俺は速度と技だ。相手の戦闘スタイルが違えば戦い方を変えるのも当たり前だ。


 とはいえ、意外だったけど、深紅の攻撃に耐えるには些か防御が薄い。


「ぐうっ!」


 強烈な蹴りを受け、ブラックが地面に二本の線を引きながら後ろに押しやられる。


 そんなブラックの後ろからレッドがジャンプをして飛び越えた。


「おらッ!!」


 足に炎を纏った蹴りを放つ。


 視界外からの奇襲。上手く考えたものだけれど、まだ甘い。


「ふっ!」


 クリムゾンフレアはレッドと同じ程度の炎を纏い、ハイキックで蹴り返す。


 一瞬の均衡――すら許さず、レッドは吹き飛ばされた。


「ぐあっ!?」


「力の乗せ方が甘い。それと――」


 ハイキックし、その勢いのまま振り返る。


「――お前達二人だけの連携も見飽きた」


 言って、クリムゾンフレアの背後から迫っていたブルーとイエローに足に纏ったのと同程度の炎を纏った拳を繰り出す。


 ブルーとイエローの拳と衝突する、が、これも一瞬の均衡も許さずに二人は吹き飛ばされた。


「きゃあっ!」


「ぐっ!」


 吹き飛ばされた二人に背を向け、深紅はブラックに肉薄する。


 一足で懐にまで入られ、驚愕をあらわにするブラック。


「耐えるだけが戦いじゃないぞ」


 言って、鳩尾みぞおちに鋭く拳を叩き込む。


「がはっ……!」


「最後に――」


 崩れ落ちるブラックに背を向けて、クリムゾンフレアはホワイトへと歩みを進める。


「あ、あぁ……」


 迫り来るクリムゾンフレアに、ホワイトは完全に戦意喪失してしまい、その場にぺたりと座り込んでしまった。


 そんなホワイトを見て、クリムゾンフレアは一瞬歩みを止めると、溜め息を吐いてから再び歩き始めた。


 そして、ホワイトの前まで行くと、軽くでこぴんをした。


「戦わないのは論外だ。お前が戦う理由を、よく思い出せ」


「あ、あうぅ……」


 涙目になりでこを抑えるホワイト。


 クリムゾンフレアはもう一つ溜め息を吐くと、変身を解いた。





 容赦無く吹き飛ばされ、地面に横たわる四人。白瀬さんはあうあうと声を上げながらどうしていいのか分からず戸惑っている。


 そんな中、深紅は俺達の方に悠然と歩いて来る。


「お疲れ。どうだった?」


「どうもこうも、まったくダメだ。素人目に見てもなっちゃいない」


 辛口な意見を言う深紅に、俺はスポーツドリンクを渡す。


 深紅はスポーツドリンクを受けとると、一気に半分ほど飲む。


「まぁ、俺も深紅と同じ意見かな。青崎さんと黄河くんはまだ良いとしても、赤城くんと白瀬さんは……こう言っちゃ悪いけど、論外かな」


「だよなぁ……」


「あ、黒岩くんはまぁまぁ良かったよ。堅さって意味ではだけど」


「ああ。結構線が良いな。まぁ、連携って観点で見れば、全然だけどな」


 スポーツドリンクを深紅から受け取り、代わりにタオルを渡す。


 深紅はタオルで汗を拭きながら、地面に倒れる四人を見る。


「青崎さんと黄河くんは筋が良いけど、ちょっと慣れてきたってくらいか。赤城くんは合わせてもらうってのが前提の動きで、黒岩くんはがむしゃらに突っ込んできてる。白瀬さんはさっきも言った通りだな」


「どうしよっか?」


「どうするも何も、一から教えるしか無いだろ。技術が拙いんだから」


「うーん……技術的な問題、かなぁ……?」


「他に何があるんだ?」


「なんか、それ以前な気もするんだよね」


「それ以前って、例えばどんな?」


「どんな? うーん」


 俺は、感じた事を言葉にしようと頭を捻る。


「なんか……なんだろ?」


「それは俺が聞いてるんだが?」


「うーん……ねぇ?」


「ねぇ、と言われてもな」


 適当に言葉を発しながらも、俺は考える。


 うんうん唸って考えて、ようやっと思い至る。


「そうだ! なんかね、皆まだ、皆の事知らないように思うんだよ」


「皆の事を知らない? 一緒のチームなのに?」


「うん。大まかな性格とかは知ってると思うけど、何が好きで何が嫌いかとか、相手の細かいところまではまだ知らないんじゃないかな?」


「……そうなのか?」


「ふっふっふっ、この間のお泊り会は無駄じゃなかったのだよ。青崎さんと白瀬さんが話してるとき、二人とも初めて知った事の方が多かったみたいだし」


 お泊り会のおり、六人で話をしているときに、青崎さんと白瀬さんの話題になった。その時に、青崎さんも白瀬さんもお互いに「そうなんですか?」だの「そうなの?」だの聞いていた。


「だから俺は、連携よりも前に推奨することがあります!」


「なんだ?」


「自己紹介!! しよう!!」


 俺がそう言えば、深紅はまた訳の分からん事をと言った顔をした。

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