ナノマシーンガール:アンドロイドは涙を殺す方法を知っている

和本明子

プロローグ

(1)

 ミサイルの雨が降り注いだ。


 弾道に榴弾が搭載されたミサイルの威力を極限まで発揮させるため、地面に着弾する直前、数十メートル上空で爆発した。


 生み出された巨大な破壊力と轟音は、鼓膜はおろか鉄筋コンクリートで出来た建造物も紙クズのように原型が分からなくなるほど粉砕……いや、消し飛んだ


 爆発に巻き込まれずに済んだ場所では、人々は蜘蛛の巣を散らすように逃げ惑っていた


 街のあちらこちらから煙と火の手が上がっているが、誰も消化活動などしていない。そんな余裕や意味が無いからだ。

 人々は本能に駆られて、安全な場所を求めて無我夢中で駆けていく。


 人が大群の後を付いて行くのは、何かしらの安心感があるのか、人の群れはより膨らんでいった。

 しかし、混乱と困惑した人間が集まればパニックは広がり、より冷静さを失わせてしまう。


 人の波に飲み込まれた人間は、倒れてしまった者を踏みつけても我先へと進みいく。


 ただ、死にたくはなかった。

 まだ、生きていたかった。


 中には途中で諦めて足を止め、これまでの素晴らしかった日々を振り返る者もいたが、それはほんの一握りだった。


 人間は、どんな事があっても生きていかなければならない宿命を背負った生物なのだ。


 だから抗っていた。この絶望の時でも。


 しかし、そんな人間の宿命を知る由も無く――生きることを求めた人々の頭上へと、ミサイルは次々と降り注ぎ、街を、人を、命を‥‥全てを消滅させていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る