【完結】方舟の子 ~神代の遺産は今世を謳歌する~

篠見 雨

第1章 遺失技術と再起動

第1章 第1話 遺失技術【20240123改稿版】

 大陸最強クラスの武闘派クラン【武器庫アーセナル】を率いるクラン長、エイル・カンナギは死に掛けていた。


 クランメンバー達と何時もの様に大陸中央の迷宮都市群の迷宮に潜り、到達階層の記録を更新している最中だった。階層主だった、【老竜エルダー・ドラゴン】との死闘を制した事で全員の気持ちが緩んだ時、唐突にボス部屋に現れた【魔将ジェネラル悪魔族デーモン】により場は混乱を極め、クランは総崩れの憂き目にあっていた。


 エイルは仲間達の回復までなんとか時間を稼ごうとし、魔将ジェネラル悪魔族デーモンに一撃を入れて挑発しながらボス部屋から魔将ジェネラル悪魔族デーモンを引き連れて駆けて行った。


 ボス部屋に最も近い転移トラップのに魔将ジェネラル悪魔族デーモンを誘い込み、エイル・カンナギは魔将ジェネラル悪魔族デーモンと共に転移した。


 転移先は同じ階層の別の場所である。ここまで引き離せばクランは立て直しが出来るだろうと考え、ほっと息を吐き、エイルは魔将ジェネラル悪魔族デーモンと向かい合った。


 老竜エルダー・ドラゴンとの死闘で消耗していたのはエイルも同様である。残り少ない魔力を駆使して何とか時間稼ぎを続けていたが、魔将ジェネラル悪魔族デーモンに吹き飛ばされ、背中を打ち付けた先の壁が大きく崩れた。何事かとさっと周囲を確認すると、どうやら壁が崩れて隠し部屋に入り込んだ事を理解した。


 魔将ジェネラル悪魔族デーモンはゆっくりした足取りで大剣を揺らしながらエイルに近付いていく。消耗し切った獲物にじっくりと止めを差そうという余裕を感じさせる。


 エイルは追い込まれた隠し部屋の中を見渡す。中央の床が石板のような一枚板で若干高くなっており、その床には魔法陣が描かれている事に気付いた。魔法陣は通常の円陣を中央に持ちつつ、複雑な術式が石板の床全体に書き込まれた、正方形の形状をしていた。


 それは【強制転移魔法陣】と呼ばれるタイプの魔法陣の特徴であった。魔力を込めて発動させると、石板上の物体を空間ごと切り取って転移させる術式である。


 エイルは魔将ジェネラル悪魔族デーモンを見やり、決断する。残り少ない魔力を魔法陣に注ぐと魔法陣は発光をはじめた。異常に気付いた魔将ジェネラル悪魔族デーモンがそれを阻止しようと襲ってくる。その攻撃を躱して組み付き、石板上に倒れ込む。石板上からエイルごと範囲外に出ようとする魔将ジェネラル悪魔族デーモンと、転移に巻き込もうとするエイルとで縺れ合い、引き摺り合いが行われる中、魔将ジェネラル悪魔族デーモンの大剣で右腕が斬り飛ばされた。エイルはそれでも悪魔族デーモンから離れず、エイルの足を悪魔族デーモンの首に絡めつつ、石板上に留めようと粘る。


 魔将ジェネラル悪魔族デーモンが後退りしながら石板上からあと少しで抜け出せるというタイミングで、強制転移が発動した。


 隠し部屋の中を光が満たし、転移独特の浮遊感にエイルが嗤った。


「ざまぁみやがれ」


 光が収まり浮遊感が消え、エイルが魔将ジェネラル悪魔族デーモンの首を抱えたまま転移が終わった。

 強制転移による空間の断絶は、魔将ジェネラル悪魔族デーモンの首を落とすことに成功したが、エイル自身の右脚まで持っていかれてしまった。


 周囲を確認する余裕もなく自身に止血を行おうとして、魔力切れに気付いた。


「あぁ、くそッ、相打ちかよ」


 エイルは持ち上げた右腕を横に放り出した。


「(でも、まぁ……皆は守れたかな)」


 失血により視界が急激にブラックアウトしていき、平衡感覚がなくなって寒気が襲ってくる。


「(命の使い道としては、すこぶる上等な最期だ)」


 エイルは笑って意識を手放した。




◆◆◆◆



 無機質な空間に淡い明かりが灯り、涼やかで落ち着いた声が流れる。




————『第二十七魔導昇降機の起動を確認……。生体反応を捕捉。入植者の反応あり。解析開始……。魂魄反応微弱。生体反応の低下を確認。……生体反応のサルベージを実行』




 第二十七魔導昇降機のある第六エントランスホールに備え付けの自律型救命ユニットが起動され、すぐに瀕死の生体を検知した。生体からの出血を確認すると、止血措置を実行していく。止血の成功を確認すると、生理食塩水に薬剤を投与した物を注入した。バイタルの維持が確認されると、自律型救命ユニットは生体を担架に載せて手術室へと移送する。応急処置を施された生体は衣服と装備を排除され、棺型の医療水槽に運び込まれた。






————『対象の生体の状態を確認……。損壊率甚大。医療溶液を注水開始』




 医療水槽の上面はすぐに透明度の高い硝子状の蓋に覆われ、その中を赤い水溶液が満たしていく。




 運び込まれた生体は、右の鎖骨が半ばから腰骨までが断ち切られたように損壊し、右脚も右腕同様に欠損している。骨格は華奢だが、彫りこんだような筋肉質な身体は男性の物だ。整った中性的な印象の顔に表情はなく、青褪めている。






————『【ナノ・ユニット】の注入を開始……。成功。再生治療を検討……。魂魄エネルギー不足により不可と判断。生体の再構築を検討……。生体部品の不足を三十%前後と確認。サイズダウンを伴う再構築を検討……。可能と判断。生体再構築後の魂魄再生を検討……。試行意義ありと判断。処理を開始』




 ゴポリ




 赤い水溶液に気泡が浮かび、急速に赤く赤くと透明度が落ちていき水槽は暗い血の色に染まっていく。




 


————『生体再構築の所要時間を計算……。およそ七日間と判断。生命炉の起動を実施……。三基の点火に成功。生命炉が三基のみのため、再構築期間を三十五日に修正。魂魄炉の起動を実施……。失敗。魂魄炉の問題点を解析……』




…………。


……………………。






————『魂魄炉の再起動を実施……。一基の点火に成功。出力五十三%で上昇停止』




…………。


……………………。




————『魂魄炉の出力が上がらない問題について。人造人間を使用した検証を検討……。疑似魂魄に疑似人格および知識・技能をインストールしての起動試験を行う』






 手術室の壁面が一部スライドし、低温保管された棺型装置が搬入される。






————『人造人間の搬入を完了。人造人間の解凍……。成功。疑似魂魄のインストール……。失敗。問題点を解析……。魂魄反応あり』






 涼やかな音声がピタリと停止した。少し悩むかのような間を置いて、再開される。






————『…………。疑似人格のインストールをスキップ。知識・技能のインストール……。成功。魂魄起動を実施……。成功。覚醒シーケンスを実施』




…………。


……………………。




 低温保管された棺型装置の天面がスライドして解放され、覚醒シーケンスを終えた人造人間ホムンクルスが覚醒する。




「……。ねむい。おやすみ」


『』




 気付け薬を注入されたはずの人造人間ホムンクルスは、二度寝した。




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