第34話

 作戦会議を終えたリリーたちはテントを出ると外の様子が少し変わっていることに気が付き、それが敵が近くまで来ているということを察しさせた。


「それじゃあこれから僕は空に飛んでいくけど、ここで一旦分かれるね」

「ちょ、ちょっと待ってよ」


 哨戒に行くためにアイリスを本体化させて背中に乗ろうとするベリルをピークコッドは焦った様子で話しかけた。


「ベリルさんがどっか行ったら俺たちは何していいかわからないんだけど。どうすればいいんだ?」

「そうだね……。とりあえず前衛部隊のところに行ってもらって指示を受けてもらってくれ。部隊はここから少し先の方にあるから迷わないと思う」

「わかった。とりあえずそこに行けばいいんだな」

「あとね、ピークコッド」

「……?」

「僕はこの後の任務で君たちを直接守ることは難しくなるけど、リリーたちを守れるのは君しかいない」

「……ああ、でも……ちゃんとできるかどうか少し不安だ……」

「大丈夫。君は聖竜教にその役目として選ばれたんだ。誰にでも任せられることじゃないよ」

「……確かに……」

「君ならできる。自分を信じればきっとうまくいくさ。頼んだよ。それじゃあアイリス、行こうか」

「グアッ!!」


 ベリルはそう言ってピークコッドの背を叩いた後、アイリスの背に乗って空へと舞い上がっていく。

 それを見つつ、っベリルのに叩かれた感触に少し浸るとピークコッドは気合を入れるように両手で頬を叩いた。


「うしっ! ここまで来たらやるしかねぇな! リリー、ラティム。お前らヤバくなったらちゃんと守ってやるからな!」

「ピーコ!」

「……っ!」


 二人からの熱い視線を感じつつピークコッドは自信に満ち溢れたかのような言葉を放つ。

 僅かな震えが体にあったがそれを隠すように二人を先導しながらピークコッドは前衛部隊の方へと向かっていった。



 ――



 前衛部隊がいる場所に近づくにつれてその周囲の雰囲気が"ヒリついている"のを三人は感じ取っていく。

 亜人たちの数も増え、各自が戦闘準備に取り組んでいる中を歩いていく三人は自分たちが場違いな存在ということを認識させていった。


「部隊長ってどこにいるんだ……。ちゃんと場所を聞いときゃよかった……」


 二人を先導しながら歩くピークコッドは周囲を見渡して先ほどすれ違った部隊長を探していく。

 だが周囲をキョロキョロと探しているが、亜人ばっかということもあってどれか全くわからない。


(やっべぇ全然わかんねぇ……。こうしてみると皆ガタいよくて全員それっぽく見えちまう)

「…………」

「ピーコ……?」

「え? ああ、何? なんか用か?」

「その……大丈夫ですか?」

「えっ!? まぁ……。……大丈夫だって。心配しなくても俺に任せておけって!」

「そっか……」

(とはいえ、このままだとさすがにダメだよな……。やっぱり誰かに聞いたほうがいいか)


 ピークコッドは一旦立ち止まって周囲を見渡し、その中で比較的話やすそうな兵士を見つけるとそこへ歩いて行った。


「あの~……すみません」

「……あぁ?」

(ひっ……)


 座りながら自分の武器の点検をしているキジン族にピークコッドは話しかけると、いかつい顔が向けられると思わずビビってしまう。


(こ、こえ~……。何食ったらそんな顔になるんだよ……)

「……ガキがなんでこんなところにいるんだ? まぁ……いいや。で、何の用だよ」

「その~部隊長さんがどこにいるか聞きたいんですけど~……」

「あ? 隊長を?」

「あ、はい……」

「……ん」


 キジン族の兵士は持っていた武器の向けるとその先に隊長がいるというのを示していた。


「…………」

「あぁ、あっちにいるってことね。ありがとう」

「…………」

(なんか顔が怖いだけで意外といい人だったな……)


 部隊長がいる場所に三人は向かっていくと、そこには自分たちが乗るトカゲ型のモンスターであるリザードバックの世話をしている人たちに辿り着く。

 その中に一人だけ立派な鎧を着ている人物を見つけると、それが部隊長というのがわかり三人はすぐにそこに向かっていった。


「あの~……すいません。あなたが部隊長さんですか?」

「うん……? なんだお前たちは。さっきの子供か?」


 ピークコッドに話しかけられたキジン族の部隊長はリザードバックから一旦離れると、三人の姿を見て訝しげな表情で見下ろした。


「えっと~。指揮官さんにここに行くようにって言われて来たんですけど……」

「あぁ……そういえばそうだったな」

「それで俺たちって何すればいいんですか?」

「何もしなくていい」

「……っえ? それってどういう……」

「そのままの意味だ。お前たちはここで待機。それで十分だ」


 部隊長はそれだけ言うとまたリザードバックの世話をし始める。

 ポカンとした表情のピークコッドとリリーを見てラティムが不思議そうな顔で二人の表情を覗き込んでいた。


「待機って、でも俺たちってここで何かするんじゃ……」

「お前たち子供に、戦場に出させるなんて誰がそんなことできるんだ。だからお前たちは後方で待機。万が一に備えていつでも逃げられるように準備をしておけ。それが命令だ」


 部隊長はそういうとリザードバックの背にまたがると、手綱を叩いて自分の持ち場へと向かって行ってしまう。

 それを皮切りに近くにいた他の兵士たちもリザードバックにそれぞれ騎乗していくと、その足音がリリーたちの周りで鳴り響いていく。

 やがて自分たちの周辺が静かになっていくのを三人は黙って立ち止まるしかできなかった。


「えぇ……。じゃあ俺たちって結局何だったんだよ」

「う~ん……どうすればいいんだろう……」

「…………」


 緊張が解けたのかピークコッドが呆れた声で呟く。

 静かになったこの場でリリーもどうすればいいかと考えているとき、遠くの空で一筋の光が照らされているのが目に映っていった。

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