長谷川祐樹6



仮入部初日が終わり、帰り道で俺は大翔を質問攻めにしていた。



「大翔、キーボード弾けたのかよ。もっと早く言ってくれればよかったのに」



「だから、言う必要がなかったって言ってるだろ。さっきから何回同じこと聞けば気が済むんだ」



「いつからキーボード始めたんだよ。バンドとかは?やったことあるの?」



「ない。キーボード始めた理由は、…そのうちわかるだろ」



大翔はさっきから、そのうちわかるばっかりで全然自分の話をしてくれなかった。



そういえば、俺は大翔の昔の話をほとんど聞いたことがない。



まあ、もともと自ら話すような人じゃないからな、と俺はたいして気にしていなかったが。



でも、その時からきっと、何かあることは直感で分かっていたのかもしれない。



結局、大した収穫もないまま、俺は家に着いた。



いつもならテレビでも見て暇つぶしをするのだが、俺は珍しく、考えたいことがあった。



何か楽器をやらなければいけない。



きっと、このままの流れでいったら、俺は軽音に入ることになる。



軽音に入ったら、何か楽器を選ばなくてはいけない。



当然、今日みたいに大翔や先輩を見ているだけで終わることは許されないだろう。



しかし、俺はリズム感も音感もなかった。



できることがないなら、やりたいことで選ぶしかない。



ネットで一つ一つの楽器を調べてみたのだが、やりたいものは見つからなかった。



ただ一つ思ったのは、大翔に負けたくないということ。



技能の面で負けていることはわかっていたが、あの強く、自分をさらけ出すような音に負けない強さの音を弾きたかった。



強い音。



それを意識したときに、俺の頭に残っている選択肢は一つしかなかった。



ドラムをやろう。



リズム感に欠けている俺には難しいとわかっていたが、どうせどの楽器もできる気がしないので、やる気が続きそうなものを選んだ。

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