相川大翔7
中学三年九月。
夏は終わってもまだまだ暑いこの時期に、俺は人生で二度目の模試を受けた。
結果は一六七番。
この前の結果と比べれば、順調といえる順位だった。
やっとこの時が来た。
そう、親に、といっても母さん一人だが、受験のことを話す時が。
夜、母さんが仕事から帰ってくるのを待って、夕飯を食べ始めたタイミングで俺は話を切り出した。
「ちょっと話があるんだけど、いい?」
「…なに」
何かを感じたのか、母さんは箸を置いて、俺のほうを向いた。
「実は、高校、受験しようと思ってるんだ」
「……」
覚悟を決めるまで時間がかかった割には、案外すんなり話すことができた。
母さんは何か言おうとして口を開いたが、結局何も言わずに閉じてしまった。
いつもの食卓に気まずい沈黙が流れた。
どうしよう、やはり俺からもっと説明すべきだろうか。
今日のことは何度もシュミレーションして、何パターンか選択肢も用意していた。
それなのに、いざとなると何を言えばいいのか全く分からなかった。
そんなことを悩んでいるうちに、先に静寂を壊したのは母さんだった。
「いいんじゃない」
否定されることを前提に、どう説得しようかと考えていた俺は、驚いて何も言えなかった。
「でも、勉強はどうするの?志望校だって決めなきゃいけないし」
困惑した直後、今度は予想通りの言葉が返ってきて、俺は待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「勉強なら、大丈夫。この前受けた模試でも、それなりの成績は取れてるから。それに志望校は、もう決めてる」
そのあとも、予想とは少し違う形だったけれど、用意していた説明を始めた。
母さんはほとんど俺の意見にうなずいてくれて、話し合いはスムーズに終わった。
予想と違っていたのは、どうせなら一番を目指せと言われたことだ。
つまり、俺が一番行きたいと思っている最難関の高校を目指せということ。
俺は、
「別に、目指すだけなら」
としか答えていないのに、母さんは、中学に最難関の西条高校を目指すと言ってしまった。
願書などもあるので、学校に連絡がいくことは覚悟していたが、そこまではっきり言われてしまうともう後には引けなかった。
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