相川大翔5
俺、
特に原因があったわけではない。
ただ、学校に行く意味が、何かを自らやる意味が、生きていく意味が分からなくなった。
中二までは普通に生活していたと思う。
普通に学校へ行って、普通に頑張って。
でも、俺が行動する理由はいつも、
「ほかの人もそうしているから」
「人がそれを勧めているから」
など、全てが人によって決まっていた。
そして、偶然そんな自分に気が付いてしまったのが、中三の四月だった。
タイミングなんていつでもよかったのだと思う。
たまたま、道徳の授業で今までの自分の行動を振り返っただけで、それがなかったとしてもどうせいつかはこうなっていた。
不登校になってから三週間くらいは、定期的に家まで先生から電話がかかってきたりしていた。
しかし、結局俺が自分の部屋から出ることも電話に出ることもなく、対応はいつも母さんがしていた。
俺はそれから、自分の部屋の中で、パソコンの光だけを頼りに生きてきた。
外との通信手段はパソコンだけで、かといって何かを発信するわけではなく、適当に出てきたページを読むことを繰り返す。
普通に考えれば、こんなの無駄なことでしかないのかもしれない。
しかし、何もやる気のない俺にはこれくらいがちょうどよかった。
そんな風に俺の新しい日常は出来上がっていき、気づいたら七月の半ばになった。
新しい日常が完全に俺の体に染みついて、出ていくタイミングを失ったかのように俺を縛っていたころに出会ったのがあのバンドだった。
日常の中で見つけた、非日常的な感覚。
それに支配されるかのようにして、俺を作っていた呪いのような生活リズムは消えていき、代わりに俺は新しい日常を作り始めていた。
朝、決まった時間に起きて、カーテンを開け、日の光を浴びる。
朝の眠気が一気に吹き飛ぶ、一日の始まりにふさわしいようなこの感覚は、とても懐かしく、気持ちの良いものだった。
一階に降りると、出来立ての朝食の良い匂いが俺を包んだ。
当たり前のように母さんが
「おはよう」
と声をかけてきて、当たり前のように、でも少しだるそうに
「おはよう」
と返す。
そんな、少し前までは想像すらできなかったような当たり前の家族の風景がそこには広がっていた。
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