B.B.―ボーイズ・バンド―

しゅーび

相川大翔

相川大翔1


パソコンの光しかない薄暗い部屋の隅で、俺は一人、世界が崩れるほどの衝撃を受けた。それまで俺を包んでいた、すべての音が消えた。



いや、違う。すべて聞こえている。一階で母さんが食器を洗っている音も、外を走っているバイクの音も。

ただ、俺の頭の中には、イヤホンを通して聴こえるバンドの演奏が、うるさいくらいに流れ続けている。



その衝撃は、動画を止めても消えることはなく、俺は取り憑かれたかのようにその曲だけを聴き続けた。

それから俺はご飯もろくに食べず、睡眠以外の時間はパソコンを開いて曲を聴くという生活を続けた。



ただただ曲を聴きたかった。体全体が、曲を欲していた。

そして、俺はその曲を演奏しているバンドについて一つの情報を得た。



『一週間後に、俺の家の近くでバンドをやる。』



もともと売れているわけではないバンドなので、小さなライブハウスでほかのバンドと一緒にやるだけだったが、俺はどうしてもそのライブに行きたかった。

こんなに強い願いを持ったことは初めてだ。もしかしたら俺が自分から何かをやりたいと思ったのはこの時が初めてかもしれない。



それからの一週間は短く、ライブ当日は予想より早くやってきた。

自分の部屋のドアを開けた瞬間、そこに広がる世界は予想以上に明るく、俺は思わずドアを閉めそうになったが、慌ててその衝動を抑えた。



今までも部屋の外に出てはいたが、人に会いたくなかったせいもあって、出るのはいつも夜になっていた。

そう考えると、ちゃんと光を浴びたのはずいぶんと久しぶりだ。学校に行かなくなって、自然と外にも出なくなったのが今年の四月だったから、だいたい三か月くらいはたっている。



朝からこんな調子で大丈夫なのかと疑いたくなるような始まりをした一日だったが、ライブをあきらめるという選択肢は俺の中に存在していなかった。



リビングに降りると母さんがキッチンにいた。

久しぶりに外に出る意気込みも込めて、まずは第一歩として挨拶をしてみたら、お化けでも見るような、でもどこかうれしそうな顔をして、

「おはよう」

と返された。



久しぶりに話したにしてはそっけなくないか。

まぁでも、何も聞かれないほうがこっちとしてはうれしいので、俺からは何も言わないことにした。



「朝食、できてるけど食べる?」



机の上には、まだ湯気のたっているご飯やみそ汁などが用意されていた。

本当は何もせずにこのままライブハウスに向かう予定だったが、時間もあるし、せっかくなので母さんに返事をしてから手を洗って席についた。



「「いただきます」」



こうして一緒に食事をするのも久しぶりだが、お互いに何も話さなかった。

母さんはずっと俺のことをうかがうように見てきてあまりいい気はしなかったが、何も聞いてこないということは母さんなりに気を遣ってくれているのだと思う。



目の前にいるのに何も話さない食事は、俺にとっては心地よかった。



こんな風にしてある意味普通に始まった、いつもと少し違う一日が、俺の人生をここまで変えるなんて当時は全く思っていなかった。

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