幼馴染みドラゴンが嫁になりたそうにこちらを見てる……
藤原ゴンザレス
第1話
我が領地は君主領である、爵位はまだない。
俺はリック・マクレガー。爵位なしの限界集落領主の息子だ。
8歳。
俺が生まれる前、国境地帯で戦争があった。
王国は戦争に勝ち、帝国の南。
要するにうちの領地を奪取した。
そこに軍人のキャンプを作り10年。
予算がなくなると現地解散。
もともと半農半兵の連中が畑を作り出したわけだ。
で、千人長だったうちの親父が砦の管理を命じられ領主代理になって……中央に忘れられた。
よくあることらしい。
王国なんて言ってるが、ちゃんと統治できてるのは中央の一部だけ。
地方はよくわからん豪族だらけなのが実情である。
いつ戦国時代になるかわからんと思うかもしれないが、帝国統一するほど元気のある豪族はいない。
それは敵である帝国も同じだ。
領土を取り返しに来ることはない。
帝国の土地であっても実際は豪族の領地なのである。
前回の戦争も食料がなくなった帝国の豪族が王国に強盗しに来ただけ。
Q.山賊と豪族の違いとは?
A.武力。
喧嘩の強さこそ正義。
国境を越えたので中央が討伐軍を編成。
中央政府はものすごく強い山賊の親分である。
それが砦を占領してなんとなく勝利。
あとは中央の文官がテキトーな命令を出して、親父は文句も言わずそれに従っている。
そして他にも紛争地は多いので数年で忘れられた。
それが我が領の誕生の秘密である。
あほくさ。
というわけでニセ貴族の嫡男は今日も外で遊んでいた。
軍で文字を覚えた親父は俺の教育に熱心なはずもなく。
10歳くらいになったら領地の軍でしごけばいいや。
俺から見ても考えが透けている。
俺もそれまでは自由にさせてもらおうと思っている。
うちの領地は文化的な施設は教会くらいしかない。
住民の男女比も男に偏っている。
いろんな領地から寡婦や孤児を受け入れてるが、安定するのは10年後だろうか。
なので子どもも多くない。
どうしても一人遊びが多くなる。
かと言って自由かと言われれば微妙。
親父の部下の貴族やら軍人やらが暇つぶしに【教育】してくる。
かまい倒してくる。
その日、俺は森にいた。
森は魔獣が出るから入っちゃダメって言われてるが無視。
たまには一人の時間が欲しい。
秋の一斉駆除が終わったあとだ。
入り口に魔獣は寄ってこない。
それよりも果物、野いちごやスグリが欲しい。
貴重な甘味である。
それだけじゃない。
肉料理のソースにもなる。
干し肉は好きだけど、やはりたまには酸味や甘味も欲しい。
その場でつまみ食いしながら採取する。
いつもの採取。
だけどそこで出会ったのだ。
ピコンと小さな生き物が草むらから出てきた。
大きさは狐くらい。
狼の子どもくらいの大きさだった。
黒い綿毛でモコモコして触り心地がよさそうだ。
目は大きくくりっとしている。
それでいて犬みたいなにおいはない。
キレイな生き物だった。
「こんにちは!」
すると小さな生き物が元気よく挨拶してきた。
お、おう。
俺は知っているぞ!
挨拶されたら挨拶を返すのだ。
「こんにちは」
「ラクエルです!」
えっへんと小さな生き物が胸を張った。
自己紹介されてしまった。
聞いたことがある。
中央の貴族は挨拶したら自己紹介するのだ。
ということは相手は中央の貴族か?
都会モンだ!!!
普通の人間は俺と同じ姿だと思い込んでたが都会の人間はこうなのか!
「マクレガー家リックです」
とりあえず足を交差して右手を大きく振利上げてから胸の前に。
放置教育ではまずかろうと、貴族階級出身の
軍人だと敬礼になるんだって。
陸軍か、海軍か、龍騎士で敬礼が違うんだってさ。
「それで君、どうしたの?」
俺は都会モンの子に声をかけた。
「ラクエル卵から出たら一人だったの! それで歩いてたらリックがいたの!」
フンスフンスと足踏みしながらラクエルが訴えてきた。
一人か。
迷子だな。
「それじゃ村に行こ」
「うん!」
それで俺たちは手を繋いで帰る。
するとラクエルが歌い出す。
森の村には竜がいてさ
きれいな声だ。
その歌知ってる。
村の先住民の歌だ。
俺もいくつか習った。
俺も一緒に歌う。
村の奥には竜がいてさ
夜が怖いとすすり泣く
一人が寂しいとすすり泣く
お腹が減ったとすすり泣く
石が痛いとすすり泣く
だけどある日
竜は泣いたよ
森が闇に覆われて
大地が腐って
星が落ちたよ
「うふふ、石投げちゃだめだよね」
ラクエルが笑った。
「だよね~。石痛いもんね~」
騎士の兄ちゃん、稽古で【矢を避ける練習】とか言って石投げてくるからなあ。
当たると痛い。
「うふふ。続き歌お」
「うん」
勇者が光の中からやってきた
えいやと竜を突き刺した
痛い痛いと竜が泣く
えいやと手足を切り落とす
痛い痛いと竜が泣く
えいやと竜を縛りつける
やめて殺さないでと竜が泣く
えいやと首を斬り落とす
ひっでー歌。
勇者と村人死ねばいいのに。
「ひどい歌だよね」
「うふふ。ありがとう」
うん? ありがとう?
でもその疑問を口にする前に村に着いた。
すると兄ちゃんの一人を発見。
あ、文官の兄ちゃんだ!
俺の勉強の先生なんだ。
「はいリック。このくらいは都会の子ならできますよ~」
「急にどうしたのリック?」
「そこの兄ちゃんのまね」
「うふふ。変なの」
兄ちゃんは、羊皮紙の束を抱えてる。
どうか統治論のテストじゃありませんように。
難しいから嫌なんだよ。
【トリスタン2世が教会へ行った領土の割譲を回避する方法とは?】とか。
答えれば、
「マジで答えやがったよ……こいつ」
とか言うし。
どうしろっていうのよ。
「ユーシス兄ちゃん! 都会の子が迷子になってたから連れてきたぞ!!!」
「お、リック。帰ってきましたか。それで都会の子って? こんなところに都会の子が来るはずないでしょ」
「この子。ラクエルって言うんだ」
ラクエルはシュバッと手を挙げて元気よく挨拶した。
「ラクエルです!」
すると、ユーシス兄ちゃんは、ばさーっと書類を落として大声を出す。
小刻みに震えて、俺を指さす。
お、どうした? 兄ちゃん?
「それは都会の子じゃなくてドラゴンや!!!」
お、おう。
ドラゴン。
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