第4話

奇妙な喋る人形との同居生活。

俺に対して危害を加えることはないし、今のところは安心してるけど……。


あの夜、人間に戻ったレイアに首を触られた時。俺は、自分がはっきりと『殺される側』だと分かった。映画でも絶対に最後まで生き残れない脇役。

ニュースで聞いていた事を全部鵜呑みにしてるわけじゃないが……でも……。


「どうしたの? お腹痛い?」


小さな人形に心配されてしまった。


「大丈夫……」


ピンポーン!


「誰か来たみたいだよ?」


「まさかっ!?」


嫌な予感がした俺は、静かに玄関前に行って、ドアスコープで外の様子を伺った。


「嘘だろ」


外には蓮司とその姉、咲希の二人がいた。


ピンポーン! ピンポーン!


「海人~? いるんだろ~。開けてくれ~。咲希がさ、どーーしてもお前と今日呑みたいって駄々こねるから」


「ちょっ! 私はそこまで言ってない」


部屋の中に戻り、頭をフル回転させて対処を考える。


仮病を使って帰ってもらうか?

祖父母が田舎から来ているからと嘘をつく?


「絶対に喋らないから安心しな。友達はさ、大切にした方が良いよ」


「………………」


再び玄関に行くとドアを開け、二人を部屋に入れた。


「相変わらず、何にもねぇ部屋だな~」


「海人君。ごめんね、急に来て」


「あ、いえ。俺は、大丈夫です」


それから数時間。小さな飲み会が開催された。俺よりも酒に弱い二人は、すぐに酔っぱらいと化した。


「なんだぁ、この人形は?」


「あぁっ!? 触るな! 大事なものだから」


「高く売れんじゃね?」


「アホかっ! 売るわけないだろ!!」


ドキドキしながら、人形を高い場所に避難させる。一瞬、人形と目が合った。

明らかに怒っている。


「ふ、ふ~ん。私よりもそ~んな汚れた人形が大事なのね。海人のバカァ!」


「何言ってるんですか! 咲希さん、酔っぱらい過ぎですよ」


「咲希って呼び捨てにしてよ~」


二人から逃げるように、酒のツマミになりそうな簡単な炒め物を台所で作る。


「海人はさぁ、良い奥さんになれるね~」


「いや、普通ですよ」


「コイツなんかさ、包丁すら握れないよ~? 違う場所は良く握ってるけどね~」


「うるせぇよ。オヤジが。お前だって、ろくに料理なんか出来ねぇだろうが!」


酔っぱらい二人を相手にする為、自分が酔う余裕がない。


「はぁ~………。ってか、今何時だ」


時計を確認したら、もうすぐ深夜一時になる。


酔い潰れてしまった二人を部屋に残し、俺は人形を持って外に出た。

誰も通らない裏路地に入る。


パアッッ! と人形全体が光輝くとすぐに人間の姿に変身した。


「間に合って良かったぁ……」


「………………む」


何やら人形、いや、レイアの機嫌が悪かった。


「あの、どうしました?」


「咲希とか言う女は、海人の彼女なの?」


「いや、違いますよ。ただの友達の姉ちゃんです」


「……………ふ~ん」


明らかに疑われていたが、嘘はついていない。


「レイアさん。いつもの公園に行きましょうか。今の時間は誰もいないだろうし」


「うん。そうしよう」


誰もいない公園。そのベンチに座る。

隣には、連続殺人犯で絶賛指名手配中の女性。コンビニで急いで買ってきた缶チューハイを手渡す。


「飲めます? お酒」


「バカにしないで。海人の百倍、酒には強いから」


「ハハ……」


彼女の横顔。月を見つめるその顔は、吸い込まれそうなほどの美しさ。

照れ隠しの為、コンビニ袋を漁る。


その時、突然キスされた。


「っ!!?」


「ん………」


少し酒臭くて、甘い匂い。でも嫌いじゃなかった。


「さっきは、私を守ってくれてありがとう」


「え……さっき? あ、あぁ」


蓮司に人形を触れさせなかったことかな。


レイアさんに手を引っ張られて森の奥へ。


「良い子には、いっぱいご褒美あげないとね~」


潤んだ瞳。躊躇なく、ズボンとトランクスを下げられ、露になった分身をレイアの口に含まれた。酔っているせいもあるだろうが、人間をダメにするレベルの強烈な快楽が襲う。胸まで触らせてくれた。


「………レイア…さ…」


「我慢しないで。お口に出して」


その夜。俺は、新しい扉をまた一つ開けてしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る