星のレクイエム

甘月鈴音

第1話 始まり

──シリウスに行かなくてはいけない。

 僕達はそう思った。


◇◇◇◇


 暗闇に光る幾万の星が震えるように瞬いた。

 彼方かなた遠くから赤や青や緑のオーロラが蛇行し膨大な夜空を美しく照らしていた。


 白い煙を吐き、ポッポ。と1車両の機関車は車輪を回しブレーキ音をたて駅に止まる。


『星のオーロラ号。20時29分発 シリウス行き』


 駅のホームにアナウンスが流れた。 

 その駅は丘の上にあり、目の前は森と湖だ。

 湖は鏡のように星空を映し、なんとも美景であった。


 さて、駅にいる人は、たった6名。


「──ん? ここはどこだ」


 今、気付いたかのように、皆々、荷物を持ち不思議そうに首を傾げている。


「ここがどこだかわからん。でもこれに乗ってシリウスに行かいといけない」

「そうだな。乗らなきゃ」


 なぜか皆がそう思い、機関車に乗り込んだ。意味もわからない使命感に、僕達は駆り出されていたのだ。


坂下 とおる 26歳

坂下 くれない 23歳

坂下 りき 15歳

坂下 毬藻まりも 12歳

坂下 しのぶ 6歳

坂下 うら 6歳


 乗員はたったそれだけだった。

 赤い座席に腰を掛け皆が居心地悪そうにしている。


 そわそわとしていると、ガタンっとゆっくりと機関車は動き出す。

 車窓から湖を見る。水面の三日月がゆらりと不気味に揺れていた。


『ご乗客の皆様。わたくし車掌を務めさせて頂くシャドウと申します』

 ザザザっとノイズだらけのアナウンスが響いた。


 皆は関心なさげに荷物をあげたり、鞄から本を出し読書や眠に入ろうとする者、二人であやとりをして遊ぶ子供がいた。


『この機関車はシリウス行き、銀河を巡る美しく、星のオーロラ号であります。あぁ、そろそろ美しいオーロラが見えなくなってまいります』


 車掌の言葉に皆が最後のオーロラを車窓から眺めた。

 ここにいるのが不思議でたまらない。

 気がつけば駅にいて、気がつけば機関車に乗っていた。


 揺らめくオーロラが果て無くどこまでも続く気がした。


『楽しい旅が始まりました」


 車掌の言葉にいったい、なんの旅だっただろうかと首を傾げる者もいた。ただ、終点のシリウスに行かなくては。誰もがそれだけは頑なに感じていた。


「さて、申し遅れましたが、シリウスに辿り着けるのは、たった一人です」

「なんだって」


 動揺が広がる。


『ふふ。察している方もいるでしょうが、この機関車は普通ではありません。この機関車は、今後の貴方がたお客サマの乗り物です』

「なんだよそれは」


『私はお客サマを審判する者でございます』

「審判だと!」


『左様です。ふふ、お客サマがこの機関車に相応しいか審査します』

「どうゆうことだ」


『お客サマの人生が良い者か悪い者かを見極めるのです』


 なにが起きたのかわからず、皆は打ち震えた。


『ふふ、泣いても笑っても、選ばれるのは一人だけ、誰が辿り着くのでしょうね』


 ヒャアっと車輪が悲鳴をあげ、機関車が真っ黒なトンネルに突入する。

 闇が覆う。不安と怒気でざわつきながら、誰もが思った。


 もう戻ることは出来ないと。

 ゴトンゴトンと刻む音が、腕時計の秒針と重なり合う。


『さぁ、始めよう。下車するか到達するかのゲームを』


 車掌の重たい声が響いた。

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