電車内でのマナーについて

惑星ソラリスのラストの、びしょびし...

第1話

「乗り換えって何分くらいあるのかしら」

「おトイレはいけるの?」

「梅田で降りて、19分あるわ」

「桂川は流石に込んでいるわよねえ」

 京都に向かうのであろうご婦人四人組が、朝のどんよりと張りつめた通勤電車で際限なく他愛もないことをしゃべり続けている。

 他に話すことはないのだろうか。もう少し、静かにしようは思わないのか。

 イライラを通り越して、なんだが面白くなってくる。いったい、なぜ彼女たちはそこまでしゃべり続けるのか。

 この世の終わりまでしゃべってそうだなあ、とぼくは思う。


 事実そうであった。


 地球が居住不能になり、太陽が死に絶え、われらの裔の最後のひとりが斃れたのちも、彼女たちは喋り続けていたのだ!

 やがてこの宇宙を繋ぎとめるすべての力が失われ、ただ塵や芥が散り散りに飛び交うのみとなった、時すら果てた暗黒の虚のなかで、

「あら、随分と暗いわねえ」

「いやねえもう年の瀬よ」

「年々早くなるわねえ」

「そのうちお迎えが来たりして」

 うふふ、やあねぇ。

「でも、流石に暗すぎるわよ。光がほしいわねえ」

 光を、もっと光をちょうだい!


 そして、まず初めに光があった。

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