中川
西悠歌
第1話
運動会が近づく5月の放課後。
私は、3階から暗い顔をして地面を見つめる中川の姿を見つけた。中川はものすごく運動が苦手で、放課後練習にはあんまり来ないし、来ても積極的に走ったりはしない。苦手でもやれば少しはうまくなるはずなのに、なんで来ないんだろうと思っていたのはきっと一人や二人じゃない。でもだからってどうしてあんなところにいるんだろう?
…まさか。私の頭の中に、ある一つの答えが浮かび上がる。ええっ?そんなことがあり得るんだろうか。私はあり得ないと思う。ついつい思ってしまう。
でもどうだろう?昨日までの男子の組体操を見る限り、なんとなく中川のいるグループは完成度が低かったような気もする。それに、作った技を崩すのなんかにも、他と比べて時間がかかっていた。3人の扇とか補助倒立とかの簡単な技でも、周りから目立って遅れて見えた。本人がこれらを自覚していたらどのくらいのストレスになるのかちょっと想像がつかない。それに何より、なんの理由もなく中川があんなところに立つはずがない。
どうしよう、私はここからでも何か助けになれるかな?でも、何かして逆にバランスを崩されたら困る。
迷い続けているうちに、中川はいよいよ覚悟を決めたような表情になった。それから大きく息を吸って…
私が何をする暇もなく、地面に飛び降りた。
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
「中川、よくやった!」
私がいる3階の教室には、校庭で組体操の放課後練習をしている男子たちの声が聞こえてくる。彼らはみんなで、勇気を出して3段ピラミッドの頂点から飛び降りて見事に着地を決めた中川を称えていた。
中川 西悠歌 @nishiyuuka
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