第128話


「これが盗賊団のアジト……すごいわね……」


「盗賊団って大胆なんですね。どこもこんな感じなんですか?」


「いえ、そんなことはないと思いますが……この盗賊団は隠す気ゼロみたいですね。それだけ腕に自信があるということでしょうか」


「単なる馬鹿の集まりという可能性もあるのじゃ」


 俺たちは盗賊団のアジトの前で、あんぐりと口を開けていた。

 盗賊団のアジトと聞いて、俺が思い浮かべていたのは、岩の隙間から団員だけが知っている合言葉を言うことで入り口が開く、いわゆる隠れ家のようなアジトだ。

 しかし目の前に建っているのは、あまりにも堂々とした建造物だ。


「ここまで堂々としていると、逆に怪しまれないのかもしれないわ。木を隠すなら森の中、ってね」


「確かに……ここは集会場だと言われたら、信じちゃうかもです」


 ヴァネッサとドロシーは、一周回って、この建造物を盗賊団のアジトらしいと思い始めたようだ。


「……正面突破しますか?」


 盗賊団退治の指揮をとるであろう魔王リディアに尋ねると、彼女は首を横に振った。


「いいや。正面突破は芸が無いからやめておくのじゃ」


「芸が無いって……」


「それなら、どうするんですか?」


「入団希望者として、内部に潜入するのじゃ」


 そう言うなり、魔王リディアは大きな声で盗賊団のアジトに向かって挨拶をした。


「こーんにーちはー!」


「誰だあ!?」


 すぐにアジトの中から、小物感の漂う男が出てきた。


「入団希望者四名じゃ。盗賊団に入団させてほしいのじゃ」


 魔王リディアは指を四つ立てた。

 どうやら俺たちも入団希望者役をこなすらしい。


「全員、盗賊に向いていそうには見えないぞ。冷やかしだろお!?」


「それはお前が決めることではなかろう」


「何だとお!?」


 小物感漂う男は、いちいち大きな声を出して威嚇してくる。

 小物みたいだ。


「俺たちは暇じゃねえんだ。冷やかしは帰れえ!」


「上の者に合わせろと言っておるのじゃ、三下が」


「どうして入団希望で最初から喧嘩腰なんですか、リディアさん」


 魔王リディアはすぐにアジトに通さない男に苛ついたのかもしれないが、入団希望者の態度としてあまりにもおかしい。

 上司になるかもしれない相手に対して、三下はないだろう。

 それが本当のことだとしても。


「……少し待ってろよお、生意気な入団希望者どもがあ!」


 小物感漂う男は、魔王リディアに売られた喧嘩を買うかと思いきや、上司にお伺いを立ててくれるらしい。

 案外良い奴なのだろうか。




 数分後、再びアジトから出てきた小物感漂う男は、俺にだけ声をかけた。


「男、お前だけアジトに入ることを許す」


「俺だけですか?」


「嫌なのかあ!?」


 どうして俺だけが通されるのかは分からないが、ここは男の気が変わる前に従っておいた方が良さそうだ。


「では、俺だけ行ってきます」


「分かりました。私たちはここで待ってますね」


「待っていても女はアジトに入ることが出来ないぞお!」


 小物感漂う男は、ここで待つつもりらしいドロシーに、待っていても意味がないと教えてくれた。

 やっぱり何だか憎めない奴だ。

 村人から物を盗んでいる時点で、悪者ではあるのだが。


「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃー! 妾もショーンと一緒に行くのじゃー!」


 話がまとまりかけたところで、魔王リディアが地面に寝転んで駄々をこね始めた。


「リ、リディア……?」


「服が汚れちゃいます、よ……?」


 魔王リディアの行動には、小物感漂う男よりもヴァネッサとドロシーが驚いていた。

 ぎこちない動きで魔王リディアを抱え起こそうとしている。


「妾は一緒に行っても良いじゃろ!? 盗賊団のマスコットキャラクターになるぞ!?」


「ダメだ。通すのは男だけと言われているんだあ!」


「妾もアジトに入りたいんじゃー! 女じゃが、子どもは良いじゃろ!?」


「子どもこそ盗賊団に入ったらダメだろお!?」


 魔王リディアも小物感漂う男も、一歩も譲らなかった。

 しばらくして折れたのは魔王リディアの方だった。


「ちっ、ダメか」


 今までの子どものような駄々っ子が嘘のように、舌打ちをしてからスッと立ち上がった。


「まあ三下では、上の指示を無視は出来んわな」


「大丈夫ですよ、リディアさん。俺一人でも、気に入られてきますから」


「ショーンは気に入られるどころか嫌われる可能性があるのじゃ。妾と違って愛されキャラではないからのう」


 それを言われると困る。

 俺は長い間一緒に旅をした仲間であるはずの勇者にすら嫌われていた。

 初対面の相手に気に入られる自信は、正直無い。


「ま、まあ……俺なりに頑張って来ますよ」


 だから俺は、そう言うことが精一杯だった。




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