第126話


 温泉から上がると、魔王リディアとヴァネッサとドロシーは出発の準備を済ませていた。


「準備が出来たら出発するわよ、ショーン」


「これからよろしくお願いします」


 ヴァネッサとドロシーの口振りからするに、ここからしばらくは一緒に行動をするつもりのようだ。


「お二人はどちらへ行かれるんですか?」


「どこって、ショーンたちと同じ場所へよ」


「さっきリディアちゃんとお話をして、一緒に旅をしようという話になりまして……もしかして私たちが同行するのはご迷惑でしたか?」


 どうやら三人で長風呂をしている間に、そういう話に決まったらしい。

 俺に相談はしないんだ……とも思ったが、相談されたところで特に反対する理由もない。


「一緒に旅をすること自体は構いませんが、俺たちはダンジョンに潜ったりもします。その……平気ですか?」


 主にヴァネッサに向けて質問をした。

 ドロシーはモンスターから自分の身を守ることが出来そうだが、ヴァネッサに関してはそうは思えない。

 防御をしようとして転んで敵に突っ込む姿が目に浮かぶようだ。


「じゃあダンジョンに潜るときは、あたしは外で待ってるわ。足手まといになっちゃうし」


 俺の質問の意味を理解したのだろうヴァネッサはそう言ったが、ではそこまでして俺たちの旅に同行する意味は何だろう。


「ダンジョンに潜らないのに、ダンジョンまでついて来てくれるんですか? どうしてですか?」


「それは……ねえ?」


 応えに困ったのだろうヴァネッサがドロシーを見ると、ドロシーが代わりに応えをくれた。


「私たちは広い世界を見るために旅がしたいんです。だからダンジョンの周辺も見てみたくて、ダンジョンが消滅するところも見てみたくて……ですよね、ヴァネッサちゃん?」


「え、ええ。ドロシーの言う通りよ」


 イマイチすっきりしない解答に首を捻っていると、魔王リディアも不思議そうに首を捻っていた。


「外で待つ必要は無いじゃろ。一緒に潜れば良いではないか」


 これに慌てたのはヴァネッサだ。

 両手を大きく振って全力で拒否している。


「ええっ!? ダンジョンよ!? あたしには無理。すぐに死んじゃうわ」


「妾が隣にいれば問題ない。安全にダンジョンに潜れる機会など、なかなか無いぞ?」


「リディアが守ってくれるの?」


「守るまでもない。妾が隣にいれば、大抵のモンスターは襲ってこないからのう」


 そうだった。

 魔王リディアがダンジョンに潜ると、ダンジョン内のモンスターはみんな隠れてしまうのだった。


「そんなことある!?」


「それが、そんなことがあるんですよね……」


 俺の言葉を聞いたヴァネッサは、ぱあっと顔を綻ばせた。


「実はダンジョンに潜るの、夢だったの! あたし、絶対にダンジョンに潜りたい!」


 笑顔になるヴァネッサを、ドロシーが微笑ましいものを見る目で眺めていた。


「ということは、次の目的地はダンジョンなんですね?」


「村じゃが?」


 ヴァネッサが、ガクッとずっこけた。



   *   *   *



 俺たちは途中で一度野宿を挟んでから、目的の村に到着した。

 小さな村だが、店はいくつかあるようだ。


「まずはアイテムショップに寄ってもいいですか」


「回復薬の補充? それとも新しい武器が欲しいとか?」


「実は俺、とあるアイテムを探すために旅をしているんです」


「どんなレアアイテム? この村にあるかしら」


 ヴァネッサは俺がレアアイテムを探して旅をしていると思ったようだ。

 確かに各地を旅して探すほどのアイテムなら、高価なレアアイテムだと普通は考えるだろう。

 しかし俺が探しているのは、大抵の人間にとってガラクタとなるであろうアイテムだ。


「俺が探しているのは、ユニークスキルを消してくれる呪いのアイテムです」


「なにそれ!? せっかくのユニークスキルを消すアイテムなんて、どうしてそんなものが欲しいのよ!?」


 予想通り、ヴァネッサが素っ頓狂な声を上げた。


「話すと長くなっちゃうんですが、俺のユニークスキルが強すぎまして……」


「あのー、ユニークスキルって何ですか?」


 俺とヴァネッサの会話を聞いていたドロシーが、遠慮がちに手を上げた。


「お恥ずかしながら、私は小さな村で育ったため世間知らずで……すみません」


 しょぼんと俯くドロシーの肩を、ヴァネッサが明るい調子で叩く。


「知らないことは、別に恥ずかしいことじゃないわ。誰だって最初は無知なんだから。むしろ分からないことをそのままにしないで、ちゃんと質問が出来たドロシーは偉いわよ」


「ヴァネッサちゃん……!」


 顔を上げたドロシーに、ヴァネッサがユニークスキルの説明をした。


「ユニークスキルって言うのはね、簡単に言うと、とっても珍しい能力のこと。型にはまらない能力って言えばいいのかな」


 その通りだが、雑な説明だ。

 しかしドロシーはこの説明で納得したらしい。


「なるほど。その珍しい能力を、ショーンくんが持っているんですね」


「そう……って、聞いてないわよ。ショーンがユニークスキルを持ってたなんて。なんで教えてくれなかったの!?」


「言う必要が無かったので……」


 俺のユニークスキル・ラッキーメイカーは、珍しい能力過ぎて説明が難しい。

 そのため、過去にはユニークスキルを説明した相手に嘘吐き呼ばわりされたことすらある。

 それもあって、必要に迫られない限りユニークスキルの話はしないことにしている。


「で、どんな能力なの? ユニークスキルってすごい能力なんでしょ!?」


 ユニークスキルの単語を聞いたヴァネッサは目を輝かせている。


「えっと、俺のはラッキーメイカーというユニークスキルで……望む結果を掴み取る能力です」


「なにそれ、すごいじゃない!?」


「すべてはショーンくんの思い描く通りということですか!?」


 ドロシーまで目を輝かせ始めた。

 しかし残念ながら、ラッキーメイカーを使っても、必ず思い描く未来に繋がるわけではない。


「そんなに万能な能力ではありませんよ。悲しい未来に繋がることも多いですし」


「え? じゃあ望む結果に繋がってないじゃない」


 ヴァネッサの頭にはハテナマークが浮かんでいる。

 俺も言葉でだけ説明をされたら、今のヴァネッサのような顔になっていたはずだ。


 欲しい結果に繋がる因果の糸を掴んだとしても、その結果の先の未来が希望通りのものとは限らない。

 マーティンの望む結果を引き寄せた先にあったのは、ルースとの決別だった。


「結果がどのような未来を生むかは神のみぞ知る、じゃ」


 魔王リディアが物知り顔で話をまとめた。


「ふーん。じゃあショーンは、ユニークスキルが期待させるだけの能力だから、消したいわけね」


「そんなようなものです」


「目的のアイテムが早く見つかると良いですね」


 呪いのアイテムが見つかることを祈って、俺たちはアイテムショップの扉を開けた。




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