第124話
見張りをしているものの、何事もなく平和な時間だけが流れていた。
最初はすぐに飛び出せるように構えていたが、あまりにも何も起こらないため、俺は石に腰かけていた。
三人はずいぶんと長風呂をしているようだ。
そんなに気持ちのいい温泉なのだろうか。
「キャーーーッ、のぞき魔が出たーーー!!」
うっかり気を抜いていたところで、ヴァネッサの大声が響いてきた。
急いで立ち上がり、温泉へと走る。
「のぞき魔はどっちに行きました!?」
「あっちです!」
「絶対に捕まえてよ!」
「まかせてください」
のぞき魔の向かった先へと急ぐ。
後ろからはヴァネッサとドロシー、そして魔王リディアの声が聞こえてくる。
「……あれ?」
「……うん?」
「今、ショーンくんに見られましたよね」
「見られたかも」
「渋っておったくせに、ショーンはきちんとお約束を守ったのう。ワッハッハ」
……うん、見ちゃった。
叫び声を聞いて思わず駆け付けてしまったが、三人が入浴中なことを忘れていた。
でも安心してほしい。
湯気のおかげで、それほどは見えなかったから。
「……と言っても、許されない気がします。せめてのぞき魔を捕まえて、名誉挽回を狙わないと」
俺は走って逃げるのぞき魔を全力で追いかけた。
彼を捕まえないと、すべての怒りが俺に向いてしまう気がしたからだ。
そうでなくても、頼まれた依頼はこなさないと。
「素早いですね!?」
身軽なのぞき魔は、すいすいと木々の間を逃げていく。
俺は木々にぶつかりながらも、逃げ続けるのぞき魔をしつこく追いかけた。
そして、ついに逃げ切れないと悟ったのぞき魔が木に登ろうとしたところを、むんずと捕まえることに成功した。
* * *
俺は捕まえたのぞき魔を、三人の元へと連れて行った。
三人は俺がのぞき魔を追いかけている間に着替えたらしく、全員が服を着ていた。
「彼がのぞき魔ですか」
「はい。彼でした」
「予想外というか、この子が犯人で良かったというか」
「じゃあ見逃してあげましょうか」
「そうですね。きっと彼は温泉に入りたかったのに、私たちがいたから入れなかったんですね」
「それで近くの茂みからあたしたちの様子を伺っていたわけね」
「じゃあのう、達者でな」
三人にのぞき魔の正体を見せた後、俺はのぞき魔を掴んでいた手を離した。
のぞき魔の正体は、サルだった。
一件落着とこの場を離れようとする俺の首根っこを、ヴァネッサが掴んだ。
「ちょっと待ちなさい」
「のぞき魔が捕まって一件落着……ですよね?」
「彼は別に良いんです。おサルさんなので。問題は……」
「ええ。ショーンがあたしたちの裸を見たことね」
「……見てませんよ」
俺は白々しいことを言ってみたが、ヴァネッサとドロシーは信じていないようだった。
「あの状況で見ていないと言い張るのは、ちょっと無理があるかと……」
「あたし、ショーンと目が合ったわ。バッチリこっちを見てた」
「顔は見ましたが、身体は湯気で見えませんでした」
これは半分本当だ。
湯気のおかげですべては見えていない。
……が、一部は見えていた。
「ヴァネッサもドロシーも落ち着くのじゃ」
ここで助け舟を出すつもりなのか、魔王リディアが待ったをかけてくれた。
さすがはここまで一緒に旅をしてきた仲間だ。
何だかんだ言っても、ピンチの時には俺のことを助けてくれる存在だ。
「ショーンは年頃の男の子じゃ。目の前におなごの裸体があったら、覗くのは本能みたいなものじゃ」
「リディアさん!? 状況を悪くするのは、やめてくれませんか!?」
違った。
魔王リディアは俺を、助け船どころか泥船に乗せてきた。
「あれは不可抗力だったんです!」
慌てて泥船から降りようとしたが、逆効果だった。
「不可抗力ということは、やっぱり見たんですね?」
「へえ、見たのね?」
「それは……その……」
「しかも、嘘を吐いたんですね?」
「より罪深いわね、ショーン?」
「すみませんでした!!」
全力で謝罪をする。
しかし今さらな謝罪で解決するわけがなかった。
「……私、一度やってみたかったんです」
「じゃあ、せーのでやりましょう。せーのっ!」
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