第122話 side リディア
ショーンによる温泉周りの確認が終わった後、妾とヴァネッサとドロシーは、さっそく温泉に浸かることにした。
この山の温泉に浸かったのは初めてだが、なかなかに気持ちのいい湯だ。
「うわあ、気持ちいい」
「本当ですね。とろっとしたお湯がいい感じです」
ヴァネッサとドロシーも温泉を気に入ったらしく、足を伸ばして肩まで湯に浸かっている。
「この温泉に浸かると肌がすべすべになるって噂、本当かもしれないわね」
「ヴァネッサちゃんはもともと肌が綺麗だと思いますよ」
「ありがとう。でもこの温泉でさらに綺麗になっちゃうかも」
「これ以上綺麗になっちゃうんですか!? すでに最高に綺麗なのに、この上があるんですか!?」
「ドロシー、褒め上手すぎ」
「本当のことですから」
ヴァネッサとドロシーは女二人で可愛らしい会話をしている。
ずっとショーンと旅をしていたため、新鮮な会話だ。
ショーンも美しい妾のことをこのくらい褒めてもいいのに、強さばかりを褒めてくる。
女心の分からん奴だ。
「ふふっ。またショーンくんと会えるなんて、すごい偶然ですよね」
「なあに、ドロシー。ニヤニヤしちゃって」
見ると、ドロシーは両手を握りしめながらうっとりしている。
「お揃いのアイテムを持って別れるなんて、ロマンチックですよね」
「もしかして合図玉のこと?」
「はい。また会える日を祈って、合図玉を見ながら思い出に浸ったりしたんですよね?」
「してないわよ」
「それなのに合図玉無しに再び出会っちゃうなんて、運命ですよね?」
「大袈裟よ」
「ここから、また二人の薔薇色の日々が始まるんですね!」
「ドロシーが思っているようなことは何もなかったわよ」
ドロシーの言葉を否定し続けるヴァネッサに、ドロシーがじとっとした目を向けた。
「……じゃあショーンくんのこと、私が貰ってもいいんですか?」
「ショ、ショーンは、物じゃないんだから、貰うとか貰わないとか……」
これまた年頃のおなごらしい会話だ。
こういった恋愛のもだもだした話は久しく聞いていなかった。
何だか話を聞いている妾まで若返ったような気がしてくる。
「あー……極楽じゃー、染みるー」
「ふふっ、リディアちゃんったら老人みたいですよ」
若返った気がしたが、ドロシーには老人みたいと言われてしまった。
妾のことを本当の老人だとは思っていないからこそ言える言葉ともとれるが。
「妾は見た目通りの年齢ではないからな」
「またまた。こんな可愛らしい見た目のお婆さんはいませんよ」
予想通り、ドロシーは妾のことを本物の幼女だと思っているようだ。
「妾はお前たちよりもずっと長生きしておるぞ。まあ、老人ではないがな」
「じゃあリディアは肩こりもしてるの?」
ヴァネッサが会話に参加してきた。
肩こりか。
そう言われると、こっているような気もする。
「ある程度は、な。爆弾を抱えながら旅をしておったら肩もこる」
「爆弾!? リディア、膝に爆弾でも抱えてるの!?」
「肩こりもして膝も悪いんですか!?」
「……爆弾はそういう意味ではないんじゃがのう」
妾の言葉を曲解したヴァネッサと、ヴァネッサの言葉を信じたドロシーが、途端に心配そうな顔になった。
「あたし、あとで肩叩きしてあげるね。リディアにはすっごくお世話になったし」
「じゃあ私は足のマッサージをします。長旅でお疲れでしょう?」
「ワッハッハ。良い子たちじゃのう」
ショーンには無い気遣いに思わず笑みが漏れる。
ショーンは妾のことを超人だと思っているからか、妾に対する気遣いが欠けている。
気遣わなくてもいい関係性を築くことが出来たととらえるのであれば、善いことなのかもしれないが。
「……って、あっれー、あれあれあれー? ドロシーってば、ちょっと胸が大きくなったんじゃなーい?」
「変わってませんよ」
妾が気遣いの出来る二人を微笑ましく見ていると、二人はまたきゃいきゃいと年頃のおなごらしい会話を始めた。
「ひっひっひ。おじさんが揉み揉みして、もっと大きくしてあげようかー? ほれほれー!」
「ヴァネッサちゃんのエッチ!」
ドロシーにちょっかいをかけようとするヴァネッサに、ドロシーが湯をバシャバシャとかけた。
しかし顔に湯をかけられてもヴァネッサはドロシーへのちょっかいを止めようとはしない。
「ワッハッハ。ヴァネッサとドロシーはずいぶんと仲良くなったんじゃのう」
妾の言葉に、ヴァネッサは笑顔で即答した。
「うん、こうやってふざけ合う程度には仲良しだよ」
「ふざけてくるのはヴァネッサちゃんだけです」
「まんざらでもないくせに。ほれほれー」
「揉まないでってば、ヴァネッサちゃん!」
「あはははは!」
「もう、ヴァネッサちゃんは悪戯っ子なんですから」
嫌がる素振りは見せつつも、ドロシーも楽しそうにしている。
お互いに、良い旅仲間に巡り合えたようだ。
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