第7話
「取引……ですか」
魔王と取引だなんて嫌な予感しかしない。
美味しい話に見せかけて、契約した後に俺が不利になるような類のものかもしれない。
「取引内容は簡単じゃ。お主は妾と一緒に旅をするだけじゃ」
「それって俺に得がありませんよね?」
魔王リディアは取引と言ったが「一緒に旅をするなら命だけは助けてやるぞ」という脅しなのかもしれない。
「これは脅しではない。取引じゃ。しかもお主にかなり得のある内容じゃぞ」
「今のところ一切の得を感じませんが」
「行き先はお主が決めていい」
魔王リディアはすごい特典だろうと言いたげな顔をしていたが、俺はそもそも旅がしたいわけではない。
行き先を決められるとしても、取引に応じようとは思わない。
「そんなものは得でも何でもないと思います」
「行き先は、ユニークスキルを奪う呪いのアイテムがある場所でもいい」
「そんなものは得でも何でも……なんだって!?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
ユニークスキルを奪う呪いのアイテム!?
そんなものが存在しているのか!?
「妾は呪いのアイテムコレクターではない。ゆえにそういったものが存在するかは知らぬ。しかし存在しないとも限らぬであろう?」
魔王リディアは曖昧な物言いをしたが、考えてみると確かにそういったアイテムが存在する可能性はある。
アイテムに偶然そういった呪いが発生した可能性も考えられるし、強いユニークスキルを持つ相手に殺された者の恨みが呪いとなった可能性もある。
強いユニークスキルを持つ相手に勝つために、あえて生み出された呪いのアイテムが存在する可能性だってある。
「そういったものは大抵、ダンジョンの中にあるが……お主一人で獲得できるのか?」
魔王リディアがにやにやと笑いながら言った。
完全に俺の足元を見ている。
「確かに俺一人でダンジョンに入るのはリスクが大きいですが……」
魔王リディアと一緒に旅をするとなると、話が変わってくる。
なんと言っても魔王だ。
ダンジョンなんて簡単にクリア出来てしまうだろう。
「ダンジョンでも何でも、一緒に行ってやろうではないか。妾がいれば百人力どころの話ではないぞ?」
確かにそうだ。
百人の人間を引き連れるよりも、魔王はずっと強いだろう。
しかし……その分、裏切られれば俺は瞬殺される。
「やっと見つけた旅の仲間を殺すわけがなかろう。妾を勇者と一緒にするとは、無礼であるぞ」
……そうだった。
勇者パーティーに入った俺は、勇者たちに裏切られ続けていた。
ということは。
魔王と組まずに人間の仲間を集めてダンジョンに挑むことになったとしても、裏切られる可能尾性があるということだ。
相手が魔王でも人間でも、裏切られる確率は変わらないのかもしれない。
「確率は変わるぞ。妾と組んだ場合、裏切られる確率はゼロパーセントじゃからのう。ワッハッハ」
「うーん……」
魔王リディアの言葉はさておき。
同じく裏切られる可能性があるのなら、魔王リディアと一緒に旅をした方がダンジョンを進みやすい気がする。
それなら……。
「ようやく妾とともに旅をする気になったか」
「契約期限はどうしますか。俺はあなたと何年一緒に旅をすればいいんですか」
「期限などどうでもよいではないか。旅は楽しいぞ。いつまでだってしたくなるくらいに、な」
「じゃあ、目的の呪いのアイテムが見つかるまでというのはどうですか」
俺の言葉を聞いた魔王リディアは、よよよと嘆きのポーズをとった。
「用が済んだら妾のことを捨てようと言うのか? これだから人間は醜いと言われるのじゃ」
「あっ、いえ、そういうわけでは……」
そんなつもりはなかったが、そういう風に受け取られてもおかしくない物言いだったかもしれない。
「それに考えてもみろ。目的のアイテムが見つかるまでなんて契約にしたら、妾がわざと目的のアイテムがありそうなダンジョンを隠すに決まっておるであろう」
確かに。
この魔王ならそういった小賢しいことをやりそうだ。
「では期限はどうしますか」
「ナシでいいじゃろう」
「ナシは困りますよ!?」
期限が無かったら、無事にユニークスキルを消した後も、魔王の旅に付き合わされることになってしまう。
人間の寿命は、魔王のそれよりもずっと短い。
お爺さんになっても旅に連れ回されるなんて、新手の拷問だ。
「そうじゃのう。では……期限は一年でどうじゃ」
「そんなに短くていいんですか!?」
さすがにそれは、あまりにも俺に有利な契約だ。
それでは一年間、魔王を自由にダンジョンへ引っ張って行って俺の求めているアイテム探しをしていいことになる。
その上、早々に目的のアイテムが見つかったとしても、一年間だけ一緒に旅をすればそれで終わりだ。
「一年で契約は終わるが、その後も妾と旅を続けたいと思ったら、契約に関係無く一緒に旅をすればよい」
「俺が言うことでもないですが、契約内容はもっと慎重に決めないと損をしますよ」
「本当にお主の言うことではないのう。ワッハッハ」
魔王リディアは、また美少女の見た目に似合わない豪快な笑い方で笑った。
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