第2話


 暗い山道を一人で歩く。


「早く遠くへ行かないと。あのまま勇者パーティーの近くにいたら、また睡眠魔法を掛けられて殴られそうだ」


 思わず溜息が出てしまう。

 勇者パーティーとして、俺なりに頑張ってきたつもりなのに。


「でもまあ、戦闘中にボーっとしてるように見えたのは仕方ないか」


 実はこれまで戦った中に、あの四人だけでは勝てないボスもいたのだが……言ったところで信じてはもらえないだろう。

 それに旅をしているうちに全員の能力値が上がってきて、今では俺がいる必要の無い戦闘も増えてきた。


「だから追放もやむなし……というか、二度と戻るか、あんなパーティー!」


 静かな山道に響き渡る俺の声に驚いた鳥が羽ばたいた。


 ……あ、チキンが食べたい。


 能力を使うと異常に腹が減るのは、強力なユニークスキルを使った反動なのだろう。

 今日すでに能力を使った俺は、腹がペコペコだ。


 獲物を狩ろうにも、この状態では能力が使えない。

 自分の手で物理的に狩るしかないだろう。


「魔法使いがいれば一発であの鳥を撃ち落せるのに……はあ」


 さっき別れたばかりの魔法使いの顔を思い出して、俺は溜息を吐いた。


 魔法使いとは上手くやれていると思っていたのに。

 それは、戦士や僧侶、そして勇者も同じだ。


「仲間だと……思ってたのに……」


 仲間だと思っていたからこそ、地道な旅を一緒にしてきたのに。

 あまりにもチートな能力は使わずに。


 そう。

 俺のユニークスキルは、運気を上げるラッキーメイカーではない。

 ある意味では運気を上げたとも言えるから、ラッキーメイカーと名乗っているが。


 俺の本当の能力は、『因果を掴む力』だ。

 あまりにもチート過ぎて能力を明かしたら、魔王を倒した後に狙われるのは俺だろうと思い、隠していた。

 なぜなら俺の能力で世界の滅亡を選択することも可能だからだ。


 …………たぶん。

 試してないから本当に出来るかどうかは分からないが。


「でもこの能力で世界が滅亡する因果を掴んだら、不可能じゃないと思うんだよな。その逆に、魔王を倒す因果を掴めば簡単に魔王討伐をして世界を救えるんだよなあ」


「ほう。魔王討伐が簡単に出来るとは。ぜひともその話を聞いてみたいものじゃ」


 突如聞こえてきた声に驚いて振り返ると、俺の後ろには美少女が立っていた。


 あと十年経ったらぜひお付き合いをお願いしたい……って、どうして美少女がこんなところに?


 あたりを見渡したが、保護者らしき人物の姿は無い。

 そもそも、今の今まで誰の気配も無かったはずだ。

 ということは、この美少女はただの少女ではなく、魔物が俺を油断させるために美少女に変身している可能性が高い。


 俺は慌てて美少女から距離をとった。

 そして懐に忍ばせていた短剣を手に持ったが、肉弾戦で勝てる見込みはまるでない。

 この臨戦態勢のハッタリで逃げてくれればいいが。


「こんな美少女に剣を向けるとは、お主さてはモテないであろう?」


 俺が冷や汗を流している一方で、美少女は余裕な様子だ。


 あと俺はモテないんじゃなくて、好きな子以外にはモテる気が無いだけだ!


「まあよい。人生はモテることが全てではないからのう。友人と遊ぶことや、美味しい食事を食べることも、人生の楽しみじゃ」


 食事という単語を聞いた途端、俺の腹が大きな音を鳴らした。

 緊張感の漂う場で、恥ずかしい。

 しかし美少女は俺の腹の虫がお気に召したらしく、大声をあげて笑っている。


「この場面で腹の虫を鳴かせるとは。緊張感が無いにもほどがあるのう」


「う、うるさいなあ。生理現象なんだから仕方がないでしょう!?」


「うむ、気に入った。少しこの場で待っておれ」


 そう言い残すと、美少女は姿を消した。

 ……が、五秒ほどで戻ってきた。

 片手に鳥を持って。


「お主、チキンは好きか?」


「……好きだとしても、こんな得体の知れない美少女の用意したチキンなんて食えません」


「美少女とな? その通りじゃが、面と向かって言われると照れるのう」


 美少女は、俺の発した「美少女」という単語に喜んでいた。

 そして姿を消したかと思うと、またすぐに戻ってきた。

 今度はもう片方の手に魚を持って。


「妾を美少女と表現した褒美に魚もやろう。肉と魚が食べられるなんて、贅沢であろう?」


 肉と魚という単語に、腹の虫がまた大きな鳴き声を発した。

 俺にはもう誘惑に逆らえるほどの忍耐力が残っていなかった。





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