第11話 「おっさん同士でイチャイチャしてんな」
短い
その前まで来たところで、
「はーい、どうもー」
ドアを開けた嶋谷は、売れない芸人のような
少し
複数の
不審や警戒といった感情の混ざった気配に、
だがそれも、すぐに
そして、スーツが似合わない三十過ぎの男が、
「何だよ、シマちゃんが来たの? ノムたちは? そいつ誰?」
「あ、はい。あいつらは別件あるとかで、オレが代わりに。こいつは、野々村んとこの新入りっすわ。おい、こちら
「ウス、よろしくっス」
「おう。それで、これが
深々と頭を下げる俺を軽く流し、森内は
これは多分、
カンザキ、ってのは瑠佳の元父親の名字だろうか。
とりあえず、クソ親父から下の娘――
姉妹の安全を確保したら、この会社を壊滅させる方法を検討しよう。
「それで、門崎のヤツはどこです?」
「今ちょうど木下さん来てるんで、上で色々と話してるみたいだ」
「えぇと……下の娘も一緒、ですかね」
「ん? 上の事務所にいるんじゃねえの。ていうか、お前が気にすることじゃないだろ」
「それはまぁ、そうですけど――」
「俺が気にしてんだよ」
嶋谷の言葉を
この手のアウトロー気取りは、いつの時代もスイッチの切り替えがわかりやすい。
「おいクソガキ、上のモンが話してる時は口を挟まない、って程度の常識もねぇのか?」
「社会に必要ないゴミカスを上位存在と認識する、イカレた常識は残念ながら――」
持ち合わせてない、と続けようとしたところで、右のミドルキックが飛んでくる。
加減のない鋭い蹴りではあるが、半ば予期できたリアクションだ。
俺は瑠佳を
「おぅぐっ――」
巻き添えを食らった嶋谷がケツを蹴り飛ばされ、近くのスチール机に倒れ込んでファイルや電話機を床にぶち撒ける。
その騒音で、それぞれに作業をしていた他の連中が、トラブルの発生を察知してこちらの様子を
「どういうつもりだ、クソガキ。何を調子こいてんだか知らんが、お前だけじゃなくて仲間もタダじゃ済まねぇぞ?」
「
「へぇ、まさかのカチコミか……どうなってんの、シマちゃん?」
不意に話を振られた店員は、倒れたままでビクッと全身を跳ねさせて、しどろもどろに応じる。
「いやっ⁉ あのっ、オレも脅されちゃってまして、はいぃ……」
「こんな学生サンにビビってんのか……迷惑料は高くつくぜぇ、シマちゃん」
「おっさん同士でイチャイチャしてんな。お前の相手は俺だろうが」
チンピラトークを強制終了させた頃には、森内の背後に緑ジャージの男二人が待機していた。
そして俺と瑠佳の退路を
俺の前と後ろ、どちらにも行ける位置には、木刀を持ったオールバックが陣取る。
念のため逃げ道を確認しておくと、入ってきたドアの前には喧嘩が得意じゃなさそうなヒョロいメガネと、いかにもヤンチャしてますという雰囲気の赤髪が。
指示がないのに素早く動いた点だけでも、コイツらがビリヤード屋でボコったアホ共よりは手強いのがわかる。
「女を救いに来たヒーロー気取りか? カッコイイなぁ、オイ」
「フッヒッヒッヒ、マジでウケるんだわ」
「漫画の読みすぎなんだよなぁ、ボクちゃん」
それこそ昭和の漫画の悪役チックな、テンプレな
そんな計算もしていたが、覚悟を決めたのか俺を信頼しているのか、瑠佳は震えたり固まったりすることもなく、チンピラ連中の視線を正面から受け止めていた。
ゴチャゴチャうるさい声が飛び交う中、彼女の耳元に顔を寄せて
(左手、机の下)
始まったらそこに退避しろ、という意味でボソッと伝えた。
意図を理解してくれたのか、瑠佳は小さくアゴを引きフンッと短く鼻息を吹く。
女子高生らしからぬ行動に少し笑いそうになるが、気を抜いていい場面ではないと我に返って森内に向き直る。
「さて、クソガキ……格闘技でも
「まず確認しておきたいんだが……ウチらみたいなモンってのは、ヤクザの下請け業者としてセコく稼いでる情けねぇコバンザメ、って理解で合ってる?」
「ってめっ! ザケてんじゃ――」
煽り返したところで、黒ジャケットが背後から突っ込んでくる。
手近なキャスター付きのスチール椅子を蹴って、黒ジャケットに向けて転がす。
昔ながらの重たい椅子は、狙い通りに標的に衝突して足を
「おわっ、ぷぁっ――まぅ!」
ゴンッ、と鈍い音を立てて顔から床にぶつかる黒ジャケット。
手をついて起き上がろうとするその後頭部に、
十秒足らずで一人が戦闘不能になったことで、場の空気が瞬時に張り詰めた。
ぼぶぅううううううぅううぅ……ぷっ
ピクリとも動かない黒ジャケットから、緊張感を粉砕する
気絶して全身の力が抜けたせいで、肛門まで
どうにも締まらない雰囲気になっているが、第二ラウンドは
大きく溜息を吐いた森内が、
「まったく、面倒くせぇ……いいか! とにかく一斉に掛かって、そのガキを動けねぇようにしろ!」
森内の指示はシンプルだが、アホ共を動かすならこのくらいが丁度いい。
少しだけ感心しながら、前後の三人がどう動くかに注意を払う。
前は嶋谷がひっくり返ったままで、後ろには黒ジャケットが
どちらも、それなりの障害物として機能してくれるハズだ。
瑠佳にはまぁ、状況が動くと同時に机に
ダメならダメで、その時にまた次の手を考えればいいだけだ。
「まぁ、アレだ……大人しくしときゃ、すぐ終わる」
「運が良ければよ、ボコボコの後で奴隷になって、命は助かるかもなぁ」
ジャージの二人が、ニヤけた面を
開襟シャツは、ポケットから
「オスガキの方がイイっていう、頭のおかしい野郎もいるからな……死ぬよりはマシだろうから、お前は感謝しながらケツを掘られとけや」
流石は前世紀、様々な
チラと視界に入れるが、木刀持ちと入口前の二人は動く気配がない。
どこかからの
飛び道具を出してくる危険も、まずないと思っていいだろう。
じゃあ、ここらで始めるとするか――
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