あやかし浄化と美味しいごはん
矢澤果林
プロローグ
うっそうと茂った森の中。
木々に邪魔をされ月明かりが差し込んでこない漆黒の闇の中をザッザッと草のかき分ける音が聞こえた。草の音が止み、数分後に一気に風がざわめく。闇の中から淡い光を放ち浮かび上がる人影。風と共に栗色の長い髪の毛が舞い上がる。
光の中の男は、囁くように何かを唱えると、開いていた厚い本のページを長い爪で数回引っ掻いた後に閉じた。
すると、パタンと閉じた本の音が合図のように風が止み、男の長い栗色の髪の毛、長い爪、そして頭に生えている角が縮む。最後に淡い光が消え、ふたたび森は闇を取り戻した。
「よし。これでこの地域で起きていた怪事件は収まるはず」
男は、木々に阻まれた空を見上げて眉根を寄せる。
「レイ……」
苦しげに名を呼ぶと、森のざわめきとはかけ離れた『ぐぉぉぉぉぉ~』という場違いな音が鳴り響いた。
「お、お、お腹すいたぁ~」
先ほどまでの苦々しい表情と打って変わり、眉毛を八の字に下げ青白くげっそりした顔の男は、空腹でいつ爆音を鳴らすかわからないお腹を押さえる。
「今日のカップラーメン、何味にしようかなぁ。脂マシマシがいいよね。背脂こってりだと、新潟の燕三条系か。ストックあったかな。こんな遠くまで逃げるから、車まで遠いじゃないか。うぅ……」
ガックリと肩を落とし、ぶつぶつと文句を言いながら男は来た道を引き返した。
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