第31話
二日目。
昨日シャロンに起こしに来てと言われていた私は六時には起きて身支度を終えていた。
七時ちょうどに部屋へ行ってノックするとまだバスローブ姿のシャロンが目を擦りながら出てきた。
「寝坊しちゃったわ。ちょっと待ってて」
言われた通りにちょっと待っていると再びドアが開いた。
「暇なら髪をといてちょうだい」
白いシュミーズに白いドロワーズ姿のシャロンはそう言うと私にヘアブラシを投げてよこした。
私は嘆息して「失礼します」と部屋に入った。椅子に座ったシャロンの艶やかで綺麗な髪をときながら、私は恐る恐る尋ねた。
「……その、誰がスパイか分かりましたか?」
「え? ああ。さあね」
シャロンはそんなこと気にしてなかったと言わんばかりだ。
「それもどうにかしないとね。でも今一番大事なのは足りない情報を補うこと。まだまだ全然手札が揃ってないわ」
「……と言うと?」
「わたし達はまだなにも分かってないということよ。今分かってるのはあの日魔法使い達がシモン・マグヌスに会っていたということだけ。でもそれを知っても事件を解けていない。なら情報が足りてない以外ないでしょ」
「まあ、それはそうですけど……。他にどんな情報が必要なんですか?」
「事件に関係するありとあらゆることよ」
「ロビーにいた軍の関係者から話を聞くと?」
「それもあるわ。でも他にも知りたいことはたくさんあるの。あの城にはたくさんの人がいたわけでしょう? 言わないだけで案外なにかを知っていたりするかも知れないわ。そういった細かいことを聞くのが今日の目的ね」
「……それで事件が解決するんですか?」
「どうかしら。決定的な情報が出れば解決するし、そうでなければ明日に持ち越しね。どちらにせよ焦っても意味はないわ。何事も丁寧にしないとね。髪をとくのと同じよ」
そうは言うがシャロンの髪はサラサラでブラシがまったく引っかからない。
鏡には私とシャロンの姿が映っていた。こうして見ると親子に見えなくもない。私の年齢ならこのくらいの娘がいても不思議じゃなかった。
こんな人生もあったんだろうか。仕事が忙しくて全然そういった出会いがなかった。女性に会ってもつまらない人だと思われ、フラれてばかりだ。
だから仕事に打ち込み、そして今は皮肉なことに仕事として少女の髪をといている。
人生なにがあるか分からないな。私はやれやれと思いながら、これもそれほど悪くないと感じる自分がいることに気付いていた。
なんにせよこんな生活も今日と明日で終わるのだが。そう考えると嬉しいような、はたまた別の気持ちもあるような気もしながら、私は朝からつやのある髪をといていた。
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