第8話

     ☆


 話を聞いた私はゾッとした。

 ドアや窓さえも閉まり、鍵が部屋の中にある状態でどうやって人を窓の下に突き落とせるのだろうか?

 ローレンスからも緊張が伝わる。おそらく私以上に考えたはずだ。しかしやはり不可解という結論に達したのだろう。

「もしドアから侵入者があり、彼を窓から突き落としたとしたら窓は閉められる。だがドアは鍵がないと閉められない。その鍵は部屋の中にあった。ならやはり……」

「魔法が使われたってことね」シャロンは静かに告げた。「だけど窓から侵入したかもしれないわ」

「可能性は低いと思います」とローレンスは答えた。「壁には登れるようなところはないですし、屋上は完全に封鎖されているから降りてくることも不可能です」

「隣の部屋からは?」

「距離があるし、足をかける場所がありません。なにより窓の外には取っ手がないので鍵が開いてない限りは開けられません」

 それを聞いて私は確信した。

「なら魔法しかないな」

「ああ」ローレンスは頷き、シャロンの方を向いた。「だからあなたをお呼びしたのです。ミスシャロン・レドクロス。ぜひお力をお貸しください」

「魔法痕を見ろってことね。でもそんなことぐらいあそこにいた五人にもできるでしょ?」

「ヴィクトリア・ベイカーとアーサー・スコット。そしてロバート・ジョンソンはできると言ってました。しかしサイラス・ヤングとイヴリン・ウッドは習得していないそうです。なにより彼らに任せるのは……」

 シャロンはフッと笑った。

「そうよね。容疑者に検証なんてさせたらなにをいじられるか分かったものじゃないわ」

「……はい。そのことを王室に相談したところ、あなたなら適任だと前女王陛下の進言がありました」

「アンナには変に気に入られているみたいね。小さい頃に事件を解いてあげたせいかしら」

 生前退位した前女王陛下は既に六十を超えておられる。この人は一体何歳なんだ?

 私がそう考えているとシャロンに睨まれた。

「無粋なことを考えている顔ね」

「……滅相もありません」

「いい? 歳なんてただの数字よ。人にとって大事なのはなにを求め、なにを成したか。それ以外はただの付属品にすぎないわ」

「……あなたはなにを求めているんですか?」

 私が恐る恐る聞くとシャロンは小さく驚き、フッと笑った。

「不老不死を殺す方法、かしら」

 ならやはりこの人は…………。

「立派なレディに成長する方法でもいいけど。この体はなにかと不便だから」

 シャロンはそう言って小さな手を見つめた。たしかにこのサイズだと大きな物を掴んだり運んだりするのも一苦労だ。おそらく普段は魔法を使っているんだろうが。

 妹がいるせいか変なところを心配してしまう。私より随分年上だというのに。

 そこまで考えて再びシャロンの視線を感じた。もしかしたら心を読む魔法があるのか?

「そんなのないわよ」

 シャロンはそう言って不機嫌そうに紅茶を飲んだ。

 本当だろうか? それとも女の勘なのか? どちらにせよあまり深くは詮索しない方がいいのは確かだ。

 シャロンはローレンスに言った。

「ここで話を聞いていて解ける事件じゃなさそうね。その古城とやらにはいつ行けるの?」

「あなたがよろしいなら今からでも。全て事件当時のままにしてあります」

「なるほど。その五人もいるわけね。いいわ。行きましょう」

 シャロンはそう言うと私に両手を伸ばした。私はなにを求められているのか分からずキョトンとした。するとシャロンはこう告げた。

「なにをぼさっとしてるの? 抱っこよ。抱っこ。言ったでしょう。この体だと移動するのが大変なんだから」

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