第5話
「密室殺人!?」
私が驚くとローレンスは顔の前で人差し指を立てた。応接室を見回すが、ここにいるのは私達だけだ。
「もう少し静かにしてくれ。外に漏れたらまずい」
「す、すまない……。だがそんな三文小説みたいなことが現実に起きるとは……」
「厳密に言えば殺人かどうかすらまだ分かっていない」
「自殺の可能性もあるということか?」
「本来ならない。……だがそう考えざる得ないのではと思ってしまう時もあるんだ」
「よく分からないな」
私がそう言うとソファーに座っていたシャロンが「なんでよ」と口を挟んだ。
「え?」
「わたしが呼ばれたのよ? 魔法が関係した事件に決まってるわ」
「あ……。つまりシモンとかいう魔法使いは魔法で殺されたということですか?」
「かもしれないわね。あるいは自殺させられたのかも」
私は目を丸くした。
「そんなことまでできるんですか?」
「さあね。わたしでもそんな魔法は聞いたこともないわ。でもないとは言い切れない。それが魔法だもの。術士が人知れず開発し、使用したとしてもおかしくないわ。ただその場合証拠は残るでしょうけど」
「証拠?」
私が不思議がるとローレンスが頷いた。
「魔法痕だ。魔法を使えば必ず魔力が残る。それを魔法痕と言うらしい。自分も先日知ったよ。だがそれを見つけられるのは魔法痕が見える魔法を使える者だけだという」
「なるほど……。だから……」
私は合点がいき、シャロンを見つめた。シャロンは余裕げに笑う。
「大した魔法じゃないわよ。十年も魔法の研究をしていれば誰でも使えるわ。つまりは人為的にエーテルの変換が行われたかどうかを見るだけだから」
十年と言うが、ソファーに座ると足が付かないシャロンはどう見ても十歳以下に見える。それに公では許可がないと使えない技術を十年も修行するのはよっぽど酔狂な者でなければ不可能だ。
私が訝しんでいるとローレンスが怪訝な顔でシャロンを見つめた。
「やはり噂は本当だったんですね」
「噂?」
私が尋ねるとローレンスは頷いた。
「西の森に不老不死の魔女がいる。そんな噂を聞いたことはないか?」
「いや、そういう話には疎くてな。だが不老不死なんて、そんなおとぎ話のような……」
しかしそれだと全て合点がいく。王の態度は明らかに年上の者に対するものだった。十年の修行を要する魔法をいとも簡単に習得しているのも納得できる。
だが、不老不死なんて本当にそんなことがありえるのか?
シャロンは品良く紅茶を一口飲むと意味ありげに微笑んだ。
「死のうが死ぬまいがそんなことどうでもいいじゃない。なによりレディの年齢を勘ぐるなんて言語道断よ」
シャロンはカップを置くと笑顔で続けた。
「死にたいの?」
「……失礼しました」
ローレンスは汗を流しながら頭を下げた。
私もあまり深くは追求しないようにしよう。それなりに軍人としてやってきたが、この殺気は本物だ。
ローレンスは気まずそうにゴホンと咳払いをして仕切り直した。
「では本題に入りましょう」
そう言うとローレンスは事件について詳しく話し出した。
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